エイプリルフールの後始末
翌朝、私が何時もの様に登城する支度していると、屋敷を普段とは違う雰囲気が支配しているのに気が付いた。
なにかぴりぴりするような緊張感と、まるでどこからか監視されているような視線。
そしてアルベルトと馬車に乗ろうと玄関ホールを一歩出たとろで、私はそこに広がる光景に絶句した。
屋敷を取り囲むように配置された兵士達。
馬車の後ろで控えるのは馬に跨る4騎の騎兵。
え、ちょっと待って?この特徴的な黒の軍服は皇帝直下の近衛兵よね?軍事力を誇るネールの、その中でも選び抜かれた少数精鋭が集まる、皇帝虎の子と言われる、あの近衛兵よね!?
ホールで固まる私にアルベルトは何時もと同じ笑顔を私に向ける。
「どうした、サク」
「えっと・・・あの、彼等は近衛兵・・・よね?何かあったの?」
私は頭をフル回転させてアルベルトは勿論皇帝や他の側近のスケジュールを確認する。ううん、今日は特別な警護が必要な案件はなかった筈。
「いや、たまには近衛も実地訓練するべきだとジュリアスが言ってな。今日一日我々の警護をしてもらうことになった。サクが心配するようなことは何もない。これも訓練の一環だからサクはいつもと同じようにしててくれ」
「そうなの?・・・わかったわ」
確かに軍の機密に関わる近衛兵に関する案件は宰相秘書の範疇外。
アルベルトがそう言うならその通りなのだろう。・・・だけど何だろう、このいいようのない不安は。
そして物々しい護衛達を引き連れて執務室に到着すると、笑顔がひきつったアレンが私達を出迎えた。
暫くしてアルベルトが部屋から出ていくと、アレンは護衛の兵達に聞かれないよう小さな声で聞いてきた。
「サクラ様、一体これは何事ですか?」
「私も何も聞いてないの。アルベルトは近衛兵の実地訓練だと・・・。でもおかしいわよね?」
「実地訓練なんて聞いた事ないですよ。しかも城内の結界も強化されてるそうです。・・・上層部は何か不穏な情報でも掴んだんでしょうか」
アルベルト信者のアレンはとても心配そうだ。でも心配なのは私も同じ。もしアルベルトに何かあったら・・・!
「ねえアレン、今からちょっと特殊な術を使うから結界を張るわ。気にしないでちょうだいね」
私はアレンにそう言うと自分のデスクに戻って、自分の周りだけ外から見えない様に不可視の結界を張る。
淡い桜色の光が私を包み、ピンクのドーム状の結界が問題なく機能していることを確認すると、私はその中で秘書スキルを発動させた。
私の持つ「秘書スキル」は日本にいた時の仕事「秘書」を生かした特殊なスキル。
依頼さえあればどんなことでも調べられる。
私自身が依頼主になれないのは難点だけど、それさえクリアすれば結構便利なスキルだと思う。
私は目の前に浮かぶ大きなタブレット画面に「アルベルト・フォン・ヴァンダイク 本日のスケジュール」
と入力する。
数秒の検索時間の後、表示されたのは驚くべき内容だった。
「アルベルト・フォン・ヴァンダイク 4月1日スケジュール」
AM0:00 神聖ネール帝国軍近衛隊ヴァンダイク邸特殊警備開始を指示
AM9:00 登城
AM9:30 皇帝と会議 以後終日村上桜特殊警護 ▼
村上桜特殊警護って狙われてるのは私?しかも終日?私は嫌な頭痛がして頭を押さえた。
気を取り直して「特殊警護」の横にある▼をタップして詳細内容を開く。
「詳細」
特殊警護目的
村上桜の日本への帰還を阻止
サハル及びバーゼルとの接触を阻止
特殊警護内容
近衛隊による屋敷並びに身辺警護
魔術師団による城内の結界強化
「日本への帰還阻止」、「サハル」、「バーゼル」
このキーワードから推理できるのは私が昨日書いたメモ。
つまりはあの手紙を見られた・・?
私は結界から出ると部屋を出てアルベルトのいる皇帝の執務室へ向かった。
それを見た警護の近衛兵が何故か怯えた様な顔をして後ろを付いて来た。
「失礼します、閣下」
皇帝の執務室のドアをノックして開けると、少し驚いた顔のアルベルトと無邪気に笑う陛下が私を見た。
私はにこやかにほほ笑み、椅子に座る二人を見下ろした。
「閣下、お探ししておりました。ここで何をしていらっしゃるのですか?」
「・・・何のことだ」
私は態とらしくスケジュール帳を出すと読み上げる。
「本日午前中は来客及び会談を予定しております。まずはサハルのラング商会、その後はバーゼルの宝石商、その後カリエッラから貿易に関する意見交換を兼ねた昼食会を予定しております。午後からの予定も詰まっておりますが、どういたしますか」
「サハルとバーゼル・・・」
アルベルトはそう言うと少し眉間に皺を寄せ考え込んだ。
「カリエッラは外せないが、その二つは後日に変更するよう調整してくれ」
「かしこまりました」
私はそう言うとにっこり笑ってスケジュール帳を1枚破り、紙飛行機を折ると魔方陣を展開させてアレンの元へ転送させる。
その様子を見たジュリアス陛下はとても嬉しそうな顔をした。
「サクちゃん今の何?紙飛行機っていうんでしょ?転送させたの?それとも通信?」
「紙飛行機を御存じでしたか、流石ですね陛下。これは私の故郷では子供が遊ぶおもちゃなんですが、私は誰かに手紙を送る時に使っています。こうやって折ると中を誰かに見られることもありませんし。嫌ですよね、自分が出した手紙を誰かに読まれるのって」
私はそこで一度区切って二人を見てにっこり笑う。
「故郷と言えば、今日はエイプリルフールと言って1年で今日だけ嘘をついていい日なんです。だから今日はみんな面白いジョークを考えてお互い驚かそうとするんですよ。うふふ、ちなみに私も昨日もこの紙飛行機で友人に手紙を送ったんです。どんな返事が来るかとっても楽しみだわ。・・・では陛下、閣下、私はこれで失礼します」
そして一礼をして私は皇帝の執務室を後にした。
二人がどんな顔をしていたか、その後どんな話し合いをしたかは知らないけど、お昼を過ぎてからは近衛兵の姿が見えなくなったから、私の特殊警護は解除されたみたい。
勝手に人の私信を見た挙句、盛大にエイプリルフールのネタに巻き込まれた二人にはきちんと責任をとって後処理をしてもらわないとね。
ちなみに翔太とエリックからもきちんと返信が届いた。
「婚約者連れて日本の両親に挨拶か?お土産はカップ麺で。あと俺来年は父親になるからよろしくな! 翔太」
「日本いいなー。僕も彼女と一緒に行こうかな。ついでにジャ〇プの最新号買ってきてね。 エリック」
・・・翔太はともかくエリックは完全に嘘だわね。
あと1話あります!




