エイプリルフールにまつわる大人の事情 アルベルトside
サクが私の執務室で働くようになって早数ヶ月。
最初は難色を示していた彼女を半ば強引に説得する形で私の第1秘書にしたのは正解だった。
漆黒の魔術師と呼ばれる彼女の卓越した魔法は勿論、何事にも効率化を求める姿勢もこちらが要求する事を事前に察知する能力も素晴らしいの一言だ。
おかげで城内で働く文官達の残業が大幅に減り、一部では「漆黒の救世主」だの「漆黒の女神」だのと呼ばれている事を彼女は知らないだろう。
何より城では一線を引いて頑に上司と部下の立場を貫く彼女が、屋敷に戻ると一転柔らかく甘えてくる様子は何ものにも代え難い。
そんな彼女がスケジュール確認をしていた時、不思議な事を始めた。
突然机の上で展開される彼女の魔力を反映した淡いピンク色の小さな魔法陣。
その中に彼女が紙で出来た不思議な物を浮かべたかと思うと、それはすっと飛ぶように魔法陣から出て姿を消した。
サクはその様子を楽しそうに見つめている。
今の魔法は何だ。一体何が彼女をあんなに喜ばせているのか、非常に気になる。
アレンもそんなサクの様子を見ていたのか、おずおずと問いかけた。
「その、サクラ様、今の魔法は一体・・・?」
「ああ、これは私が使ってる通信魔法の一種よ。友人に手紙を送ったの。紙飛行機っていうんだけど、面白いでしょう?」
サクはそう言うと器用に紙を折って先程と同じ不思議な形の物を作った。そうか紙飛行機というのか。
しかし手紙だと・・・?誰に送ったんだ?
「ほら、この形を飛行機って言って、空を飛ぶ乗り物を模してるの。見ててね」
サクはそう言うと立ち上がり紙飛行機をアレンに向かって投げる。
すぐ落ちるかと思われた紙飛行機はすーっと弧を描いて飛び、アレンの机の上に着地した。
「へー面白いですね!紙で折っただけなのにこんなに飛ぶものなんですね!」
「私のいた国では子供がこれで遊ぶのよ。懐かしいわ」
まるでおもちゃをもらった子供の様にはしゃぐアレンと、彼を温かく見守るサク。
なかなか良い光景だが、私が今興味のある物はそれではない。
体よく私の机の上に落ちた紙飛行機を手に取って眺める。
「なかなか興味深いものだな。・・・少しこれを借りてもいいか」
「勿論です。というかそれは差し上げますわ、閣下」
「そうか、有難う」
私は紙飛行機を手に部屋を後にすると、真っ直ぐジュリアスの元へ向かった。
そしてタイミング良く皇帝の執務室にいたジュリアスに紙飛行機を渡した。
「ジュリアス頼みがある。これを見てくれ。サクが作った紙飛行機という紙のおもちゃだ」
きょとんとした顔で紙飛行機を受け取ったジュリアスは、紙飛行機を手の中でくるくると回した。
「えーっと・・・これは何?僕にこれで遊べとでも言うの?」
「いやそうではない。問題なのはその中身だ」
「中身?」
そう言うとジュリアスは躊躇なく紙飛行機を開き、一枚の紙に戻す。
「・・・白紙だよ?これがどうしたっていうのさ」
ジュリアスは僅かに眉間に皺を寄せ綺麗な顔を曇らせた。
「サクはこの紙の上にあったもう一枚の紙に手紙を書き、それを何者かに魔法で転送した。彼女の魔法の残滓を辿って文面を再現できないか」
「ああそういう事ね。面白そう。やってみようか」
ジュリアスはにこにこ笑いながらその魔力を紙に流し込む。
濃紫の彼の魔力が紙一面に行き渡ると、サクが書いたと思われる文章が浮かび上がった。
ジュリアスはゆっくりそれに目を通すと、蕩けるような笑顔で私に紙を寄越した。
「サクちゃん例のコピペ魔法を使ったんだね。おかげで無事文章は再現できたみたいだよ。でもこれ・・・アルベルト、どう思う?」
「翔太、エリック、元の世界への帰還方法を見つけた。明日4月1日、私は日本に帰省する。同行を希望するなら一報を。桜」
私は思わず手中の紙を握り潰した。
「・・・ジュリアス、近衛兵を数名借りてもいいか」
「勿論いいよー、なんだったら1隊丸ごと使っちゃって。念のためサハルとバーゼルの間諜にも連絡とっとく?」
「頼む。明日はもしかしたら直接お前の力を借りるかもしれん」
「明日は一日屋敷にいた方がいいんじゃない?」
「いや、屋敷では侵入者があった場合防げん。城の結界の方が安心だ」
「ああ、まあそうかもね。・・・なんだか面白くなってきたなー。どうせだったら第1種警戒体制でも発令しちゃう?」
「・・・いや、個人的案件でそこまではやりすぎたろう」
「うふふ、神聖ネール帝国の中枢が集まるこの城の力が試されちゃうねー」
「みすみすサクを逃がすような無様な真似はしない」
「うわー明日が楽しみ!」




