エイプリルフールにまつわる大人の事情 サクside
ここは神聖ネール帝国の宰相アルベルト・フォン・ヴァンダイク閣下の執務室。
私、村上桜は少し前からここで第1秘書として働いている。
こうなるまでにはちょっとした紆余曲折があった。
最初アルベルトからこの話を聞いた時、仮にも婚約者なのだから公私混同は良くないと私は固辞した。
そりゃあアルベルトと朝から晩までずっと一緒にいられるのは魅力的だけど、他国で冒険者をしていた私がネールの官僚にどう思われるかわからなかったし、何より長く秘書から離れていた私がネールの宰相、しかもその第一秘書なんてとても務まる訳がないと不安だったのだ。
それに対しアルベルトは、ここネールは良くも悪くも弱肉強食、つまり実力主義の国だから何も問題ないと熱心に説明してくれた。
執事のフーリッツさんも、そして何故か皇帝のジュリアス陛下にまで是非にと言われ、一番難色を示すだろうと思われた元第一秘書のアレンに至っては、貴重なアルベルトの笑顔が見られるからと諸手を挙げて賛成する始末。
こうなっては流石にお断りし辛く、とりあえず結婚式を挙げる半年後までの期間限定でお仕事することになったのだ。
日本にいた時と違ってパソコンなんて便利ツールが存在しないこの世界。
スケジュール管理は当然全て手作業、つまりシンプルに手帳に書いて管理している。
でもせっかく魔法が使えるんだからと私が良く使うコピー&ペーストつまり「コピペ」を教えたり、スケジュールの共有化やタスク毎のフォルダを作って進捗を確認するやり方を提案した所、この方法は他の幹部の秘書達にも浸透しつつある。
周囲の理解もあるし、日本にいた時のスキルも生かせてやりがいがある充実した毎日。
せっかくだからお城で働く女性文官の職場環境を向上させちゃおうかな?もしくは目指せネール初の女性官僚!?うふふ、なんちゃって。
さて今日は3月31日。
ちょっとした休憩時間に今日のスケジュールを確認していた私はある事に気が付いた。
明日は4月1日、つまりエイプリルフール。たまには誰かをとびきりのジョークで驚かしてみたい。
でもこのネタが通用するのは元パーティを組んでいた翔太とエリックの二人だけ。
むくむくと悪戯心がわき上がった私は暫く考えた後、こんな一文を書いた。
「翔太、エリック、元の世界への帰還方法を見つけた。明日4月1日、私は日本に帰省する。同行を希望するなら一報を。桜」
私は別のメモにも同じ文を書き、それで紙飛行機を折る。
そして自分の机の上に小さな魔方陣を展開すると、私の魔力を込めて翔太とエリックの元に転送した。
これはもちろんジョーク。だいたい翔太もエリックも元より帰還を希望していないのを私は知っている。
さて、彼等は一体どんな反応をするかしら。私は思わずくすりと笑う。
そんな様子をアルベルト様とアレンが少し驚いた顔をして見ていた。
「その、サクラ様、今の魔法は一体・・・?」
「ああ、これね、私が使ってる通信魔法の一種よ。友人に手紙を送ったの。紙飛行機っていうんだけど、面白いでしょう?」
私は同じ紙を使ってアレンに紙飛行機を折って見せた。
「ほら、この形を飛行機って言って、空を飛ぶ乗り物を模してるの。見ててね」
私は立ち上がると紙飛行機をアレンの方に飛ばした。
すーっと弧を描いて飛んだ紙飛行機は、アレンの机の上に着地する。
「へー面白いですね!紙で折っただけなのにこんなに飛ぶものなんですね!」
「私のいた国では子供がこれで遊ぶのよ。懐かしいわ」
アレンは紙飛行機を持つと、真似をして私の方へ飛ばそうとする。
でも力を入れ過ぎたか紙飛行機は大きく逸れ、アルベルトの机に落ちた。
アルベルトも紙飛行機を手に取ると、興味深げに眺めた。
「これはなかなか興味深いな。・・・少し借りてもいいか」
「勿論です。というかそれは差し上げますわ、閣下」
「そうか、有難う」
そう言っても紙飛行機を持つと、アルベルトは部屋から出て行ってしまった。
こんなおもちゃに興味があるなんて、アルベルト可愛い!思わず笑みが零れてニヤニヤしてしまう。
「サクラ様、あの、よかったら作り方を教えていただけますか?」
「勿論よ、アレン。とても簡単なの。見ててね・・・」
アレンとそんな呑気なやり取りをしていた私は知らなかった。
この紙飛行機が巻き起こす大事件を・・・。




