翔太の回想と見せかけたノロケ話 炎の勇者とお姫様
アルベルトって奴に連れて行かれる桜を見てたら俺は柄にもなく昔の事を思い出した。
「私の好みはクールな頭脳派がタイプなの。更に言わせてもらえばちょっと年上で仕事はできるけど余計なことは言わない寡黙な上司タイプがドストライク。筋肉はそれはあったほうがいいけど自分の筋肉を誇示するようやつは大っ嫌い。大体この世界はっきり言って脳筋の人多すぎでしょ。そりゃあ冒険とか剣とか魔法とか、弱肉強食の世界だからある程度はしょうがないわよ。でもプレゼントと称してレアモンスターの毒針とか爪とか鱗とかいらないから!君にぴったりのアクセサリーを贈るよってダンジョンで入手した呪いの指輪とかビキニアーマーとかもらっても嬉しくないから!っていうか胸筋ぴくぴくしながら俺の女にならないかとか言われても心の底から嬉しくないっ!」
っていうのは桜が昔言ったセリフ。
当時はガキだったからわかんなかったけど、今ならなんとなく理解できる。まあ知らないダンジョンがあれば攻略しに行くし、レアモンスターの討伐部位とか売らずにアイテムボックスにいつまでも入れている俺はやっぱり脳筋タイプなんだろうな。そんな俺でもいいっていうサリーナがいるんだから今やどうでもいい話だけどな。
高校生の時に日本からうっかりこの異世界にやって来た俺は、正直女にあんまり興味はなかった。
ガキの頃から体を動かすのが大好きで小学校からサッカーを始めた俺は、高校になってもサッカーのことしか頭になかった。そこそこもてたから彼女はいたしやることはやってたけど、正直デートとかで映画見てるより外で友達と思いっきり体動かしてる方がよっぽど楽しかった。
こちらの世界に来ても勇者なんて呼ばれて寄ってくる女に不自由はしなかったけど、一人の女に深く嵌ることもなかったし、相変わらず外でダンジョンを攻略してる方がよっぽど楽しかった。
そんなある日、俺はとある砂漠のダンジョンである女に出会う。
見るからにお金持ちパーティの一行。全員装備がやたら金かかってるし小奇麗。しかもイケメン揃い。その中で一際目を引く女がいた。真っ赤な髪に濃い赤い瞳のすっげえ美人。ゴージャスなビキニアーマーで、でかい胸に細い腰にぷりぷりした尻を惜しむことなく晒した女。しかも手に持ってるのウィップ(鞭)だし。何のエロゲのコスプレだよ逆ハーかよとか遠くから眺めてた俺は、しばらくして違和感を感じた。
パーティの中で真剣なのはその女だけだった。
本来前衛ではないだろうに自ら前面に出て戦うその女を、パーティのメンバーは白けた表情とおざなりな態度で接している。
しばらくして聞いた噂によるとどうやらサハルの貴族のご一行らしい。あーなるほど、我儘なお姫さんとその取り巻きね。そう思った俺は興味を無くした。
またしばらくして俺は別のダンジョンでその一行に会う。一人張り切るゴージャス美女と例のごとく白けたメンバー。暇に飽かしてまじまじと見ていた俺は、そのうち彼女が必死なのに気が付いた。張り切っているのでもはっちゃけているのでもない、彼女は一人必死になって戦っていた。
その時俺が感じた感情は理不尽な怒り。それはあの女に対してか、それとも周りの男に対してか。俺は昔から難しいこと考えるのは得意じゃねえんだよな。気が付いたら体が動いてた。
「よお、お姫さん、助けが必要かい?」
「なっ・・・貴方誰ですの?」
ウィップを振り魔物と対峙する彼女のすぐ後ろに突然立った俺に、彼女は動じることなく睨みつけた。切れ長の少し吊り上った目。気の強い女は好みだ。彼女は魔物が倒れて消えていくのを確認すると俺の方を向き直った。
「それで私に一体何の用ですか」
「俺を雇う気はないか?ここから先は姫さんの腕じゃあ心許ない。俺を雇えよ。こんなキラキラした護衛よりよっぽど役に立つと思うぜ」
「何者だ」
そう言って男の一人剣の柄に手をかけて彼女と俺の間に割って入ろうした。俺は態とにやりと笑って構わず続けた。
「さっきから見てればこいつら何もしてないよな。あんたの後ろに突っ立ってるだけだ。こんなお荷物連れてる位なら俺を雇えよ。損はさせない。いい話だと思うぜ」
「失礼な奴「この人達は私の護衛ではありません。お目付け役ですの」」
彼女は男を遮るように喋るとまっすぐ俺の目を見た。そして次の瞬間俺に向かってにっこり微笑みかけた。
「確かに私に護衛は必要です。ですが貴方が私の信用に値するか人間かどうかは全くわかりません。何を持ってして貴方が信頼できる人間だと証明するのですか」
なんつーか美女の微笑は凶器だな。明らかに怪しい風体の俺を馬鹿にするでもなく真っ直ぐ見つめる彼女に俺は一瞬見とれ、慌てて誤魔化すように頭をがしがし掻いた。
「あー、俺難しい話はよく分かんねえけど、とにかく俺の強さを証明しろってことだよな。どうすればいい。剣か魔法でも見せるか。それともお宝の方がいいか。ああ、それともここで脱いで筋肉でも見せてやろうか?」
「な、ぬ、脱ぐって貴方なんですか!そうではなく、普通はまずは自己紹介とか経歴とかから始めるでしょう!」
「なんだ、そんなんでいいのか。俺の名前は翔太・中村、ソロの冒険者だ。よろしくな。それで他に何が聞きたい?」
「ずいぶんいい加減な自己紹介ですわね!せめてランクとか出身地とか、他にもっと色々あるでしょう!」
「なんだ、そんなに俺に興味があるのか。じゃあ今度二人っきりの時にゆっくり教えてやるよ」
「あ、貴方に興味なんてありません!」
サリーナと名乗ったその女と俺はしばらくすると二人だけで砂漠のダンジョンを攻略するようになった。
流石にお貴族様だけあってプライドは高いが、だからって驕ったり他者を見下したりはしない。まだ10代だっていうのに随分大人びている。そのくせ会ったばかりの怪しげな俺をすぐ信頼したり時々妙に不安げな顔をしたりちぐはぐな危うさもある。目が離せない。
まあなんつーか、10歳以上年下のサリーナに俺は惚れちまったんだろうな。
1か月くらい経ったある日俺は彼女に気になっている事を聞いた。
「なあサリーナ、お前特に冒険が好きなわけじゃねえんだろ。どうして砂漠のダンジョンばかり行きたがる。何を探してるんだ?」
「・・・そうですわね、貴方にはお話しした方がいいのかもしれません。私、砂漠の薔薇という物を探しているんです。18歳になる前にそれを手に入れないと、・・・意に沿わない結婚をさせられてしまうんです。だから、どうしても・・・」
そういうとサリーナは何時もの勝気な表情から一転泣きそうな子供みたいな顔になった。
「なんつーかあれか、政略結婚ってやつか。お貴族様の考えることはよくわかんねえな。で、その18歳の誕生日まであとどれくらい猶予があるんだ?」
「・・・あと3か月です」
「はあ?3か月?お前、それでその砂漠の薔薇ってのが何なのか知ってんのか?どこにあるとか目星はついてんのか?つうか二人でダンジョン行くようになってからもう1か月経ってるぞ。どうしてもっと早く言わなかったんだ」
サリーナは下を向いたままふるふると頭を振る。俺はまたがりがりと頭を掻いた。そんな泣きそうな顔すんなっつうの。
「・・・ったく、しょうがねえな。俺がなんとかしてやるからしばらく時間をくれ」
俺が久しぶり桜に連絡を取ったのはそんな経緯からだった。
あれはもう何年前の事だか、とあるギルドで偶然エリックと出会って気が合った俺達はよくつるむようになった。そこに桜が加わって俺達3人は何となく共同で依頼を受けるようになった。
そんなある日突然エリックが言ったんだ。
「ショータとサクラの名前って、Japaneseみたいだよね」
それがきっかけで俺と桜は日本からこの異世界に転移した客人だということがわかり、更にエリックはアメリカ人の転生者だということが分かった。
地球での記憶を持つ3人が集まった縁でパーティを組んだ俺達は、やがて無敵のパーティ何て呼ばれるようになった。
俺はその素早さと炎の魔剣を持つことから赤い疾風の勇者、エリックは聖剣エクスカリバーを持つ聖なる騎士、そして桜は漆黒の魔術士だと。
はっきり言って俺たちが無敵だったのは桜のおかげだ。
桜が持つスキル「秘書」はちょっと特殊で、依頼をかければ何でも調べてくれるチートスキルだ。
当時桜はいくら色々事前に分かっても自分に有効的な攻撃スキルがないので意味がないと言って笑ってたけど、いつでも命がけで魔物と対峙していた俺とエリックみたいなソロの冒険者からすればとんでもないスキルだ。テストの答えが予めわかってるような、ダンジョンの攻略マップが事前に手に入るようなもんだもんな。
最後の依頼「邪竜討伐」を終えてパーティを解散してから俺たちはずっと連絡をとってなかったんだけど、惚れた女が困ってるんじゃあしょうがねえ。
桜に依頼をかけた結果「砂漠の薔薇」の在り処がわかって、更にサリーナがサハル王国の王女様だっていうのもわかった。どこのお貴族様かと思ってたら王女様だったとか、びっくりするよな。
そして後日無事砂漠の薔薇を手にしたサリーナが暴走して自分の親父、つまり国王に恋人がいる宣言をぶちかまして俺達は付き合い始めたんだが、再度桜から連絡があったのは約2週間前。
「翔太、サリーナさんとネール帝国の宰相の縁談が進んでいるけど貴方達大丈夫なの?このままだとネールの舞踏会で二人の婚約が発表されるわよ。仕方がないから私が宰相と仮の婚約者という契約で時間稼ぎしてあげるわ。だから翔太も頑張ってね」
「仕方がない」とか「してあげる」とか言ってるけど俺「も」頑張れって言ってる時点で本音が出てるだろう、桜。うんまあでも仕方がないから頑張るしかないな。
そんな訳でサハルの宮殿に乗り込んだ俺が自分の正体をサリーナと国王前で晒して、更にサリーナを引っ攫うと脅したら一転俺とサリーナの婚約が決まって。せっかくだから桜の前で婚約披露しようってことではるばるこのネールの舞踏会までやってきたのが現在。今ココって訳だ。
ふと横を見るとサリーナは嬉しそうに笑っている。こんなに楽しそうならわざわざここまで来た甲斐があったかな。後でゆっくり桜から話をきいてやろう。普段俺の前ではお姉さんぶってるあいつがどんな顔をするか楽しみだ。
桜「も」頑張れよ。




