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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
第Ⅳ部 本物の大人になるために―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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第27話 叫んだ鳥とほうれんそう~第二節~

 軽トラックで金網を引っ張り、踏み跡を片付けていく。網状の硬い物体で足跡だらけの真砂土(まさど)を均(なら)すのである。その金網は、業務用ロープを南京結びで軽トラックの後ろに引っ掛ける構造になっている。こうして校庭のトラック外周から始まり、どんどん輪を狭めていく。最後に、小円をくるっと描いてフィニッシュである。

 先日、南京結びを勉強しようと思ったら、どういうわけか方法を知っていた。南京結びだけじゃない、もやい、アメリカン等のメジャーな結び方は大体知っていた。私(元)というのは、本当にどんな人間だったんだ? 今のところ、ブルーカラーなのか、それともホワイトカラーであるのかすら検討がつかない。

 相棒である調歌とともに、ドライバー役である私は、ひたすら楕円を描きながら校庭をトラックでひた走る。監視役である調歌は、荷台に乗って金網を見張っている。


「お、停止!」

「OK」


 トラックが止まる。調歌が、ささっと降りていってピンポン弾を回収した。それをゴミ袋に入れる。調歌のサインとともに、また発信。

 今のところ、いいペースだ。これならば8時までに余裕で終われそうである。ここでバックミラーを見る。苹樹たちは、軽トラで走ることが出来ない校庭の柵側を伝い、ゴミを拾っていた。軽トラの上で調歌が、立ちながらブンブンと手を振る。それに応える2人。

 危険だぞ、と突っ込もうとした。が、止めた。今は、青春の大事な時間だ。こうした光景を見ていると、校長が今日の作業を許可した理由も分かる気がする。

 ふとミラーを見ていると、違和感が襲ってくる。それに気が付き、ゆっくりと車を止める。


「おい、調歌」

「ん! な、なに」


 さっと、金網を指差す。


「これは、なんだ」

「え、ええーと」


 視れば、金網に尖った石が突き刺さり、さっきからずっと地面を引っ掻いているようだ。それは校庭中に軌跡を描いていた。


「ご、ごめん。対処が、ちょっと。抜けそうにないし」

「うん、確かにな。子どもじゃあ、これはキツイだろう。でもな、まあ、気持ちは分かるんだが……そうだろう」

「あ、うん。いぬに言うべきだった……ごめん」

「悪い知らせほどよく報告する。社会の大事なルールだ。そういう行為はチームの利益に繋がるからな。本当に大事なことだ」

「わ、わかった! 分かったよ!」


 調歌が、はっきり分かったというのは珍しい。普通の中学生に、社会人じみた説教などしたくもないが、まあ、いい仕事はしたいし、致し方ない……か? おっと、これは……小雨が降ってきた。


「調歌、大丈夫か?」

「降ってるうちに入らないよ!」


 雨は、パラパラと降り続いている。

 残り時間、20分の時点で小雨が降り始めた。苹樹と彩季は、ゴミ出し場に向かう最中であった。帰る頃には、置き傘でも差して来るだろう。

 問題は調歌である。仕事が終わるまでは、てこでも傘を差しそうになかった。さっきから傘を持ってくると提案しても、てんで聞かないのだ。

 一刻も早く仕事を終わらせて部室を確保したいのだろう。校長からの条件では、“人目につかない時間帯で作業する”という条件が課されていた。そんなの早朝しかありえない。

 雨は、パラパラと降り続いている。

 段々と調歌の身体が濡れてくる。風邪でも引かせたら大変だが、こういう事態は想定していない。合羽(かっぱ)の用意もなかった。残り時間、15分。


「いぬ、まだ!?」

「もうすぐ校庭の中央に向けて楕円を描き終わる。もうちょっと待て」


 苹樹たちはまだのようだった。彼女たちが、寄っているはずの各地点は校内でもバラバラの位置にある。きっとそれで遅れているに違いない。

 さっきから調歌の様子がおかしい。どうにも怪しい挙動が多い。そういえば、トラックがちょっと重くなっているような。

 雨は、パラパラと降り続いている。

 残りはもう10分か。苹樹たちが帰って来るの姿が見える。それと……あれは律子じゃねーか! 合羽(かっぱ)を着て、3人で楽しそうに歩いてくる。それにしても教師が遅刻するとは……だが、合羽を持って来たのはファインプレーだ。

 校庭を周る作業も終わった。あとの片付けの時間、合羽を調歌に着せてやろう。そう思い、軽トラをそちらに向かわせようとしたとき。バックミラーに映るそれを、私は見てしまった。

 さっきから、ハンドルが重い重いとは感じていたが――金網に――水分混じりの真砂土が積み重なって、土くれの山を形成しているではないか!

 慌ててトラックを止める。何してるんだ、急に止まるな! 調歌が危ないだろ! こうして、私は軽トラから飛び降りる。その様子に向こうの3人も気付いたようだ。


「調歌。お、おい。これ」

「ごめん……ごめん。早く終わらせたくて。自分でも何言ってるのか、わけわかんない」

「……さて。どうするか」


 雨は、パラパラと降り続いている。

 メイン作業が終わっていたのは幸いだった。てんこ盛りになった土くれの山を退かすため、校庭隅の百葉箱にある砂山まで軽トラを走らす。砂山の隣には、陸上競技用の砂場がある。

 残り時間は……5分だ。一応、8時半までに終了すれば良いのだが、そんなにギリギリでは人目につく。教育的配慮とはいえ、生徒が労働行為をしていたことが保護者に伝われば校長にも迷惑が掛かる。

 はっきりいって、こんな事態は想定していない。天気予報では晴れだったのに、雨足はどんどん強く――今では傘を差さないと風邪を引くレベルに至っている。律子を先頭とする3人は、軽トラの動きを察知したようだ。こちらの方に歩いて来ている。その様子を見遣りつつ、軽トラを停める。


「ええと」


 調歌は、打ちひしがれていた。彼女は、こういうところで拘(こだわ)りがあるからな。時間内に終了しないことについてのプレッシャーを感じているに違いなかった。

 目の前には、大量の土。スコップは用意していない。手での作業は不可能。さあ、どうする?


「賢先生! これ」


 苹樹。僅かな時間でそこらをちょいと走り、拾ってきたのは――廃木材の板であった。そうか、これで掬(すく)えばいいのか。


「やる!」


 それを奪い取るようにして調歌は、金網に堆積する真砂土を砂山に還す作業を始めた。苹樹が持ってきた道具以外に役立ちそうなものはない。かくなるうえは用務員にスコップを借りるにしても、今からでは時間が足りない。

 そうだ! 軽トラで、この山を駆け上れば……いや、駄目だ。この高さだと横転する危険が大である。ああ、もう! どうすればいいんだよ!

毎週、金曜日から日曜日まで更新です。それでは、ゆっくりお読みください(。。)...

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