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インセンシティブ・センシブル  作者: サウザンド★みかん
第Ⅲ部 影響していく力―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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第16話 創部宣言!~二節~

 昼飯も終わって(いつも律子と食べている)、12時20分。私は、その時間の空き教室前に立っていた。これから、柔道部の説明会を行う予定になっている。その旨の掲示についても、昨日の夕方に済ませてある。

 開会の前に、深呼吸。中からは声が洩れている。少なくとも、10人くらいはいそうだ。緊張している。私は、緊張しているのだ。もし誰もいなかったら、どうしようかと思っていた。落ち着け、落ち着くのだ。何度もプレゼンの練習をしたではないか、発表時間は僅かに5分程度である。あとは、自然体でそれに臨めばよい。今か今かと、逸る気持ちを抑えて私は、出来るだけ静かに、その教室へと足を踏み入れた。

 中には数十人が密集していた。部屋の後ろ側には律子の姿もある。机はそのまま置いてあったからよかったものの、それの準備が必要だったなら、確実に席不足となっていただろう。教壇まで辿り着いて私は、こっそりと指をパッチン(音は鳴らない)する。

 それは、プレゼン開始の自己合図であった。

 

「アピールすることは一つ。柔道部に入ることで、ゆたかな将来への切符を入れよう!!」


 おいおい、新興宗教か? だがとにかく、これをテーマにしたのだ。とにかく、確信をもってドーン! と押していく。営業の基本である。

 そして私は、周りの空気を確認する。皆、静かであった。受け入れられるか否か、これからの結果で決まる。


「君たちには、色々な目的があるはずだ。それを叶えるために、柔道部を利用して欲しい」


 運動部というのは、一応は教育のためにある。我欲を達成するために存在するわけではないのだが、部活動劣勢のこの時代に、平凡なアピールでは部員は入らない。


「とにかく相手をブン投げたい。志望校への提出書類に柔道初段と書くことで、内申点を確保したい。なんとなく部活に入りたい。女子にモテたい。喧嘩に負けないようになりたい。目的というか、様々な形での願望があるはずだ」


 ここまで発表して、教室中を見渡した。どうやら興味無さげな生徒はいないようだ。知っている顔もあったかもしれないが、気にしている余裕もなかった。話を続けよう。


「そういう願望、なんにも恥ずかしくないですよっ!」


 総合量販店の包丁販売員なみのテンションで、私は叫ぶ。とにかく、とにかく人間の経済原理に訴えることが鍵であると、私は判断していた。目的も無く、適当に部活をやるのはよろしくない。たとえ不純であっても、本人にとってのゴールが存在していることが肝要なのだ、と。

 そのときだった、後ろ側の扉がゆっくりと開いていった。そして入って来たのは、田奴利吉たぬりきち。いぶかしげな視線を送られるが、どうやら説明会を止める気もないようなので、何事もなかったようにプレゼンを続けることにする。ええと、次の台詞は……


「みんなには、もっと部活というものを軽く考えて欲しい」


 田奴は何も言わない。腕組みをして、ロッカーに寄りかかっている。もう少し厳しい表情を取っていたならば、もう完全にアッチの人である。律子は清聴していた。相変わらず、何を考えているのか良く分からない表情だった。


「まあ、本人が何を思っていても、柔道部で頑張るとするだろ? その努力は近い将来、役立つことになる。どう役立つかは、その願望次第だ。役に立たないこともある。だが、私のところまで相談に来たなら」


 お喋りの気配はない。ここまでは成功である。まさか、ここまで上手くいくとは。


「そのときには、入部自体がその目的に繋がるのかを判断して、助言することを約束する。どうかみんな、自らの欲求に素直になって欲しい。では、最後に質問はありますか」


 誰も手を上げなかった。まあ、これは予想通りだ。このうち何割が入部するだろうか、せめて10人は欲しいところだ。説明会の終了を告げると、全員がゆっくりと立ち上がり、教室を出て行こうとする。怖いぐらいに、淡々とした挙動だった。


「律先生。部員、来そうですかね……」

「生徒の反応、淡白でしたね。乾先生」


 いつの間にか呼び方が変わっているが、まあ、これも心の距離が縮まったというやつだ。ほら、九里村先生だと、8文字で呼びにくいじゃないか。

毎週、金曜日に更新です。ゆっくりお読みください(。。)...

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