Episode:2 のじゃロリJKとコミカル代理顧問
「んあ、何が起きたッスか⁉︎」
あたりを見渡す。蒼の花園で影との戦闘、起死回生の反撃の直前に目の前を覆った白い光……そのあとの記憶がない。
「おっと、目が覚めたか」
傍らから声、薙刀の女か。
「なかなかに幸運じゃの、よもや雷に打たれて無傷で済むとは……じゃがまあこれでわかったろう、危ないことには突っ込むでないぞ」
「そうだっ、例の殺人鬼は⁉︎」
「逃げられた。汝とともに雷に打たれ、何処へな」
「……追わないんスか?」
「うむ、無駄じゃからな。この街のどこにも気配がないのじゃ。また次の霧の日の夜、ここに現れるじゃろう」
次の霧の日の夜……今度は負けない。
握りしめた拳、爪が皮膚に食い込んだ。
「汝、まだ懲りておらぬのか。闘気がダダ漏れじゃぞ……。まったく、こういう手合いは言っても聞かんからのう……どうしたものか……」
チラチラと、こちらを見ながら思案する女性。すると苦い顔をしながらこう告げた。
「どうしてもと言うのであれば——殺人鬼探しをするのは妾が付き添っているときのみにせよ。ほれ、ケータイを出せ。連絡先を交換してやる」
そう言って彼女はスマホを取り出し、連絡先を教えた。
「…………と、自己紹介がまだじゃったな、妾は瀬尾律姫と申す。これからよろしく頼むのじゃ」
屈託のない笑顔を見せる律姫。彼女のことはよくわからないが、確かにここで——私の運命の歯車が動く音がしたのだ。
◇
翌日になって——。
『来て欲しいところがある』
休日の朝早くから瀬尾律姫が連絡を寄越した。日課のトレーニングを終えた私はすぐさま返答をし、言われた場所へ向かった。
「言われた通り来たッスけど……なんでこんな場所に?」
彼女が私を呼んだ場所は山奥の寺院であった。私が住んでいる屋敷と同じ山の中にあるこの寺院であるが、人は全く来ず、今も静寂が広がっている。
「ここは妾のアジトじゃ」
「こんなところに住んでるッスか? っていうかそれ法律に引っかかると思うッス」
「まあまあ、細かいことは気にせんでよい。ここは霊脈の流れが良いからの、力を蓄えるのにうってつけの場所なのじゃ」
山奥というのもあって、侘しい外観の本堂には手入れらしい手入れもなく少し荒廃していた。
「で、なぜここに——じゃと? 無論、それは作戦会議じゃ」
話が本題に入ったところで、私は神経を尖らせて話を聞く姿勢に移った。
「まず、あの角の生えた男は霧が出た夜にしか現れぬ。そして昨夜はあの花園に現れたが……ハルカよ、なぜそれを知っていた?」
「学校での噂ッスよ。実際この目で見るまでは眉唾だったッスけど……」
「それじゃよ、その噂……誰が吹き漏らしたんじゃ?」
「そんなの、わかりっこないッスよ。あっしは友達から聞いただけッスけどその友達が誰から聞いたのかはわからないッスし、それを突き止めるのは時間が幾らあっても足りないッス」
「……ふむ、そうか。それは残念じゃ。じゃがな、妾が思うにその噂をふき漏らした奴はあの男と繋がっておるじゃろう」
「先にそっちをとっちめておきたいって話ッスか? 確かに日中探れないのは勿体無いッスからねー。それで、具体的にどのようなことを?」
「こういう事件の専門家が妾の知り合いにおる。その者に協力を頼みに行くのじゃ」
そうして着いた場所は私のよく知る場所であった。
「ここ、あっしの通ってる高校じゃないッスか」
「おや、汝も東校生であったか。そうじゃ、この江峰東高校に専門家がおる」
「身近な場所にそんな人が……! それで、その専門家って、誰なんスか?」
「彼女の名は八敷意。江峰東高校の教師であり、我ら文化研究部の顧問じゃ」
文化研究部——これもまた江峰東高校に伝わる噂話であった。部室があるのにも関わらず、所属者が一切不明と言われている謎の部活動。まさか実在するというのか。
「ま、とりあえず会ってみた方が早いじゃろう。そこで逐一と説明してけば良いでの」
そして八敷先生とご対面しに文化研究部の部屋へ。
彼女自体は学校で時々見かけるが、それほど意識するような人物ではなかった。確か二、三年生の国語を担当しているらしいが、まだ今年が初年度の高校生活を送る私には縁のない人物であった。
ぎぎぎ……と、おそるおそる扉を開ける。
「あれ、誰ー君ぃ? 文研部加入希望?」
扉の先の女性は、まず間違いなく私達が探している人間ではなかった。
黒髪に赤のメッシュを入れたストレートヘア。年齢からして教員のように思えるが、服装はラフでとても先生には思えない。
「いや、そういうワケじゃなくて……八敷先生を探してここに来たッス」
「あー、ココちゃんならいないよ? 長めの出張。だからあたしが代理としてここにいるの」
「ええっ、そんな話聞いてないッスよー。……ってか律姫さんは?」
「あら、あの子と一緒に来てたの? 残念だなぁ、一度見てみたかったのに」
肩を窄めて露骨に残念そうな素振りを見せる彼女。八敷先生の代理と言っていたが、彼女はどのような存在なのだろうか。
「夏休みが明けて以降、良くない霧が出てるでしょう? そんなタイミングでココちゃんが出張になっちゃったもんだから大変でねぇ? 急遽あたしが代理することになったんだけど、瀬尾ちゃんが来なくなっちゃったのよね。なんか事情があるのかもだから直接聞く気はないのだけど、あなたから聞いてくれるのなら嬉しいわ」
「それは、善処するッス……」
「期待して待ってるわ。……それで、今日はココちゃんにどんな用があってきたの?」
私は昨日起きたこと、そしてその最中に瀬尾律姫と出会い、彼女の案で八敷先生に会いに行くことになったことを話した。
「ウワサは聞いていたけど……殺人鬼、本当にいたのね。こんなとき、ココちゃんならどうするかしら……あっそうだ!」
——手渡されたのは手書きの地図のメモ。
『会ったら妹がお世話になりましたと伝えといて!』という言葉を添えて。




