ポップコーン!
バーボン作成のために、領内で使われているコーンを選定していこう。
そうしてマイネンシュトシュ公爵領内で流通しているコーンを調べているうちに、ヴァイオレッタはあるものを見つけた。
それこそがコーンの中でも非常に外皮の硬い爆裂種のコーン、ポッピングコーンである。
コーンはこの世界であまり食用として使われてはいない。
農家の一部の人間は製粉して食用にしているが、その大部分は家畜などの飼料として使われている。
主な用途が飼料用ということもあり基本的にどれもかなりお安く買うことができるのだが、中でもポッピングコーンは特に安く、ヴァイオレッタからすれば捨て値と思えるような値段で売られていた。
その理由は、ポッピングコーンの果皮がとにかく固いことにあった。
他のコーンなどのように粉として挽いて飼料にするのにも、調理して食べるのに、固いので手間がかかる。
おまけに収量自体もそこまで多いわけではないため、ほとんどの農家は別種のコーンを栽培しており、栽培している品種の都合上このポッピングコーンを生産するしかないごく限られた地域でしか生産が行われていないらしいのだ。
結果として固いのに使い道が少ない不人気コーンとして、要らない子扱いをされていたのだ。
ポッピングコーンがあれば、あの映画のお供として欠かせない存在であるポップコーンが作れるというのに!
「こんなに美味しいのにですよ! 不憫だと思いませんか、アイザック様!」
「お、おぉ……」
ヴァイオレッタの剣幕に押され、アイザックが手にしていたグラスをテーブルに置く。
どうやらアイザックはまだこの美味しさを知らないらしい。
だがたしかに考えてみれば知られていれば今頃もう少し良い扱いを受けていただろう。
それなら私が教えてあげなければならぬ。
使命感に突き動かされながら、ヴァイオレッタは火魔法を使ってフライパンを熱し始めた。
用意しておいた油を敷き、その上に乾燥させたポッピングコーンを乗せる。
目で見てわかりやすいように蓋は取り、フライパンの上に風の防壁を作っていく。
「ポッピングコーンは乾燥させても、内側に水分を残しているんです。加熱をしていくと中のお水が水蒸気に変わっていきます」
「なるほど、以前言っていた気化が起こるわけだ」
どうやら前回の復習はばっちりらしい。
ヴァイオレッタは中火を維持すべく火力を調節しながらコーンをジッと見つめていた。
「けれどポッピングコーンの外側の果皮はとにかく固いです。なので水蒸気は内側に閉じ込められ続けます。すると内部に留められた水蒸気が果皮を押して……」
パンッッ!!
「ヴァイオレッタ、敵襲だ!」
「て、敵襲じゃないです、ポップコーンです! これ見てこれ!」
慌てて机の下に自分ごと引き込もうとするアイザックをなんとか押しとどめる。
その間にも熱されたポッピングコーンが、パパンッと破裂音を鳴らしながら弾け、ポップコーンが出来上がっていく。
「す、すごいなこれは、魔法を見ているようだ……」
「ふふっ、たしかに不思議ですよね。多分圧力とかが関係してると思うんですが……」
「またわからない言葉を使われてしまったな」
風の防壁で見えているフライパンの中が、どんどんとポップコーンでいっぱいになっていく。
どうやら思っていたよりも膨張するようで、すぐに火は止めたのだが余熱でまだまだポップコーンは弾け続ける。
フライパンはすぐに満杯になり、あふれ出したポップコーンが落ちそうになる。
慌ててお皿を下に敷いて一旦加熱を止め、出来上がったポップコーンをお皿の上に改めて並べていった。
「これがコーンのニューメイクに合うお酒……ポップコーンです!」
いくつかの取り皿にわけ、まず一つ目のお皿にはシンプルに塩だけで味付けをする。
「くんくん……良い香りだな」
「これも手で掴んで食べるのが一般的なんですよ」
「なるほど、それが南部流ということか……」
南部でもポップコーンを食べている人はいなかったが、説明も面倒なので曖昧に微笑んでおく。
そのまま手にしたポップコーンをパクり。
サクサクとした食感に、思わず懐かしさがこみ上げてくる。
塩は軽く振っているだけなので、素材本来の甘みがじんわりと口の中に広がっていった。
そして数噛みもすれば、口の中であっという間に溶けていってしまいお皿へ手を伸ばしてしまう。
やはりこの軽さがポップコーンの一番の魅力。
正直いくらでも食べてしまえそうだ。
「これは……美味いな」
懐かしのポップコーンの味に思わず頬を緩ませていると、アイザックはヴァイオレッタに倍するほどの速度でパクパクとポップコーンを食べ進めていた。
ヴァイオレッタもポップコーンを食べ、そのままコーンのニューメイクのソーダ割りを飲んでいく。
彼女はまったく熟成感のない蒸留酒も嫌いではないが、アルコールを感じずに楽しむにはやはりソーダ割りが一番だ。
ポップコーンの塩味を、コーン由来の優しい甘さが流してくれる。
基本的にお酒と食事は、香りや味の系統似ているものが合いやすい。
同じコーンを素材にしたポップコーンと蒸留酒が、合わないはずがない。
ヴァイオレッタも気付けばソーダ割りを飲み干してしまっていた。
二杯目は水割りで、敢えて風味を味わいやすい状態にして飲むことにする。
「そうしたら他の味も試してみましょうか。ポップコーンはコーン自体の味が素朴だから、色んな味が楽しめるんですよ!」
ヴァイオレッタはまず、塩を振ったお皿の上に溶かしたバターをとろりと垂らす。
こうすればバター塩味のポップコーンのできあがりだ。
動物性の油脂の力で先ほどまでポップコーン自体が重たくなり、よりお酒のおつまみに合う仕上がりになっていく。
「くうっ」
アイザックが口の中に溜まったバターをソーダ割りで流し込む。
油をお酒で流し込む瞬間の爽快さは、他には代えがたい魅力がある。
「続いてはこんなことも」
ヴァイオレッタは次のお皿に、粉にしたパルメザンチーズをふりかける。
軽く敢えて塩を振れば、チーズ味のポップコーンのできあがりだ。
「おお、一気にチーズの味になったな……」
ライトな仕上がりながらも確かにチーズの味がする。
おつまみとして優秀であるチーズがサクサク軽く食べられてしまうため、酒が進まないはずがない。
「そしたら次は、ちょっと甘いのも」
ヴァイオレッタは次に何もかかっていないポップコーンの上にはちみつをかけ、それをバターと一緒に和える。
最後に甘みを引き立てるためのほんのひとすくい入れれば、ハニーバター味のポップコーンのできあがりだ。
「はちみつとも合うのか……」
「アイザック様は甘いのも大丈夫ですか?」
「正直茶会以外で食べる機会はほとんどなかったな……甘味がこうして酒と合わせることができるのも、初めて知った」
手が汚れてしまうので、こちらはフォークで食べるアイザック。
はちみつの濃厚な甘さを、コーンのニューメイクの爽やかな甘さが整えてくれる。
おかげで次のポップコーンを食べても甘さがくどく感じることなく、蒸留酒と同じコーンの甘さがハニーバターの奥にもあるおかげで、しっかりと酒の当てになる。
甘いものがあまり得意ではないアイザックだったが、こうして酒のつまみとして食べる分には悪くないように思えた。
「そしたら最後はちょっと手の込んだ、本格的なのいきますね!」
ヴァイオレッタは空けたフライパンの上に砂糖と水を入れ、加熱してキャラメルを作っていく。
砂糖が焦げて茶褐色になったらそこにバターを入れてなじませ、とろっとした段階で火を止めてフライパンの上でポップコーンと混ぜ合わせていく。
「私が一番大好きな、キャラメル味のポップコーンです!」
ヴァイオレッタが引き上げたポップコーンには、とろーりと粘度の高いキャラメルが絡みついている。
ゆっくりと口の中に入れると、強烈な甘さが口の中を駆け抜けていく。
「ん~~~っ!! おいひい~~っ」
焼きたてのポップコーンとアツアツのキャラメル。
そんな最強のコンビを組み合わせて美味しくないわけがない。
甘くてまろやかで、でもコクがあって……スイーツとしてもクオリティが高く、思わずうっとりと目を細めてしまう。
「甘い……が、美味いな。そしてキャラメル由来の香ばしさが、実にこの酒に合う……」
アイザックはポップコーンのことをおやつというより完全におつまみとして認識したらしく、グラスを片手にパクパクと食べている。
楽しんでくれているようで何よりだ。
「そして最後に、これを水魔法で軽く冷やせば……」
水飴状だったキャラメルが、冷えることでパリッと固まる。
ゆっくりと引き上げたポップコーンの中央にはキャラメル溜まりができていて、口の中に入れると幸せの味がした。
(このキャラメルが大好きなのよね~)
映画館でキャラメルポップコーンを頼んだときに、キャラメルがたっぷりかかったポップコーンを食べるとなんだか得した気分になる。
そんな昔を思い出し、ヴァイオレッタはちょっとほっこりしながら甘さに身を委ねる。
「これは……美味いな」
カラメルを冷やしたキャラメルポップコーンがどうやら相当に気に入ったのか、お酒を飲むのも忘れてパクパクし始めるアイザック。
その様子を見て少しは息抜きになっただろうかとヴァイオレッタは外を見る。
どうやら思っていたよりも長く酒盛りをしていたらしく、既に日が暮れ始めていた。
(やば、全然お腹減ってない……)
こうしてポップコーンに夢中になりすぎたヴァイオレッタは、いつもより少なめにしてもらった夕食をなんとか食べきり、パンパンになったお腹で眠りに就くのであった。
ちなみにその日以降、アイザックはおやつにこそこそとキャラメルポップコーンを食べるようになるのだが、それはまた別の話……。
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