ペアリング
新しいお酒ができたらそれをどう食事に合わせるか。
蒸留酒造りが自身のライフワークと化してきたヴァイオレッタはああでもないこうでもないと試作を繰り返していく。
「ヴァイオレッタ様、わざわざ自分で作っていただかなくても言われりゃあ自分がやりますが……」
少し呆れた様子で昼食の準備を進めているのは、公爵家の料理長であるロドである。
三十代前半ほどの逞しい腕をした大男で、コックというより山賊の頭とでも呼んだ方が相応しいような見た目をしている。
「うーん、でもやっぱり自分で料理するのが好きだから。ごめんなさいね」
「いや、いいんですがね。俺としても教えてもらうことも多いですし」
ただ彼はとにかく料理への探究心が強く、美味い料理のためならなんでもするという男なので、前世知識があるヴァイオレッタが料理をすることをむしろ歓迎している一風変わった料理長であった。
ヴァイオレッタはこの屋敷に来てからは自分でも結構料理をするようになったのだが、自身の職域を冒されるにもかかわらず彼女に嫌な顔一つしない。
それどころか時々やってきては質問をしたりメモを取ったりするほどの凄まじい向上心があり、実際彼の手によって既にハンバーガーは魔改造が進んでいる。
親指と人差し指で挟めるほどの大きさの小型バーガーを串打ちしてヴァイオレッタでも一口で食べられるサイズに仕上げたり、魚を揚げたものを挟むフィレオフィッシュを造ったり……既にマイネンシュトシュ家のハンバーガーは前世の下手なバーガー屋よりもバリエーションが増えているような状況であった。
「それは……パーティーの時に出した焼き鳥に似ておりますな」
ヴァイオレッタが造っている料理をちらと見ながら、ロドがくんくんと香りを嗅ぐ。
辺り一帯に漂っている香ばしい匂いは、ヴァイオレッタが開発に成功した調味料……日本人の心である醤油の香りだった。
そう、ヴァイオレッタはもろみ造りで試行錯誤をして発酵のノウハウを蓄積させたことで、ようやく念願となる醤油と味噌を造り出すことに成功したのだ!
これはウイスキーを造れたことに負けぬほどのインパクトがあった。
ヴァイオレッタが転生してからというもの、この料理に醤油があれば……と思ったことは数知れず。
前世ではあらゆるものに使っていた調味料がないせいで物足りなさを感じていた彼女は、最近はどんな料理にも醤油を使うようになっていた。
「これは……香ばしい匂いですな」
お酒は基本的に近い香味の食品とのペアリングが合う。
なのでカフェ式で造った蒸留酒には香ばしいものを合わせたい。
現在ヴァイオレッタが造れる香ばしいものといえば、やはり醤油を使った料理だ。
焦げ目がついたチキンをひっくり返しながら、じゅわりと漂う香りに顔を綻ばせる。
「前回の焼き鳥のタレと少し似てるんだけど、もう少し甘めのソースにしてあるの。テリヤキソースのチキンだから、テリヤキチキン。わかりやすいでしょ?」
現在ヴァイオレッタは、テリヤキソースにチキンを絡ませて焼いている最中だった。
砂糖だけではでない甘やかな香りは、アルコールが飛んだみりんの香りである。
焼酎が造れるようになった数々の副産物のおかげで、料理の幅もずいぶんと広くなってくれた。
みりんもなんやかんやでよく使うため、ヴァイオレッタとしても重宝させてもらっている。
「ちなみにこれ、ハンバーガーにも合うわよ」
「そうじゃないかと思ったんです! レシピいただいてもいいでしょうか?」
「もちろん! 久しぶりに私もテリヤキバーガーが食べたいわ、造れたら是非食べさせてね」
こうして料理の基本形を見せれば、ロドがどんどんと発展させてヴァイオレッタが食べたいものを作ってくれる。
美味しい物が大好きなヴァイオレッタと料理への飽くなき探究心が燃えさかるロド、両者共にウィンウィンな素晴らしい関係であった。
水と醤油、みりんで造ったテリヤキソースを仕込み包丁を入れた鶏肉にたっぷり絡ませたら、余ったソースを使ってジャガイモを炒めた一緒の皿に乗せ、最後に彩り用の茹でたインゲンを乗っければ完成だ。
「せっかくならアイザック様のところに持っていってあげたらどうです?」
「料理は用意してあるんじゃないの?」
「アイザック様は健啖家なんで。それにヴァイオレッタ様の酒と合わせれば、いくらでもお腹は空くでしょう」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
ロドは粗野な見た目をしているが、こんな風にしっかりと気遣いのできるところのある男だった。
公爵家の料理長の肩書きは伊達ではないということなのだろう。
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