表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女扱いされていますが、景観を守っているだけの紳士です 〜美しくないものを整えていたら、少しずつ世界がおかしくなりました〜  作者: 葱市場


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/9

第9話 「こっちくんな!美意識が死ぬ!」

「無理無理無理っ!」


「嫌ァァアアッ!」


「ほんと、最悪っす!」


 古い坑道に、三人の叫び声が響く。

 逃げる三人を追いかけるように、黒い波が坑道を埋め尽くすように蠢いていた。



 さかのぼること三日。

 ホルツ経由で、指名依頼を受けた僕たちは、古い廃坑の入り口に立っていた。


「ここが依頼の場所っすか?」


 いつものメイド服ではなく、動きやすそうな格好をしたサッシェが、隣にいるローブ姿の女性に話しかける。


「ええ、今、地図で確認したから。

 依頼書にあった廃坑で間違いないわ。

 かなり昔には、鉄鉱石の鉱脈があったみたいね。」


「廃坑になってから、結構経っているみたいっすけど……

 随分と辺鄙な場所っすねぇ……」


「ここを掘っていた頃は、近くに集落もあったみたいよ?」


「しかし、リツィアさんも大変っすね?

 ギルドからの依頼とはいえ、付き添いでこんなとこまで出向くんすから。」


「まぁ、本来ならホルツもいる筈なんだけど、ノルンさんの方に付いていったから仕方ないわ。

 それに、こちらには聖女様がいるじゃない?」


「そうっす!

 ご主人様がいれば、どんな魔物が出ても楽勝っす!」


「……そうよね。

 なんと言っても、あのドラゴン擬きを一撃ですもの。

 安心よね?」


「そうっす!」


 軽く笑いながら話すリツィアが、少し離れた岩場で真剣に変なポーズをとる少女を指差して問いかける。


「で、その聖女様はなんで、ずっと動かないのかしら?」


「あぁ、アレはまた変なこと考えてるだけで、別に害はないっす。」


 リツィアの問いに答えたサッシェが、少しだけ肩をすくめる。

 その態度に違和感を感じて、リツィアが更に問いかける。


「……貴女のご主人様なのよね?」


「そうっすよ?」


 何を今更といった、顔をして答えるサッシェに、まあ……そういうこともあるかと納得したリツィアが口を開く。


「……まぁ、主従にはいろんな形があるわよね。」



 廃坑入り口近く、ゴツゴツとした岩場のちょっとだけ開けた場所。

 そこに、サッシェが持ってきたテントを建てると、テントから少し離れた場所に、そこら辺にあった石を組んで簡易的な竈を作る。

 更に、リツィアが警戒用の魔道具を設置し終えると、サッシェが元気よく食材のチェックをはじめた。


「まずは……

 ちょっとだけ早いっすけど、お昼ご飯っす!

 お腹がすいては、ちゃんとお仕事出来ないっす!」


「サッシェちゃんのご飯、とても美味しいから今から楽しみだわ!」


「今回も、美味しく作るために頑張るっすよ!」



 この時の僕たちはまだ知らない、この後の恐怖と不条理を……。



「入ってますかぁっ!

 ……うん、入ってます!」


 僕は、まるでトイレのドアをノックするように、坑道の壁を叩くとその音に意識を向ける。

 なんとなく音が違う。

 うん、これは『何か』があるね。

 紳士というより、これは人形師として、様々な素材を扱ってきた職人としての勘だよ?


「聖女様、またみつけたの?

 ……ここって本当に廃坑なのかしら?」


「これで三つ目の鉱脈っすよ?」


「……やっぱり依頼書に書いてあった噂は、本当なのかも知れないわね。」


 僕たち三人が受けた依頼は三つ。


一、最近、付近の村から鉄鉱石を売りにくる一団がいると、ギルドに報告が多発しているので、実態の調査。


二、近くの廃坑の調査。


三、山賊などの資金源になっていないかの調査。


 他にも細かいところはあるけど、大体この三つがギルドからの依頼だった。


 当然、賢い僕は考えました。

 一と三って、地味で面倒じゃない?

 やっぱり、地味な調査より冒険だよ。

 なので、当然僕たちは二を選択。

 一と三は、ノルンとホルツにお任せした。

 有紗はツェンの教育があるらしいので、いつも通り屋敷でお留守番となった。

 まぁ、ノルンにはかなりごねられたけどね……。


「廃坑に、知られていない鉱脈が存在する。

 そして、鉄鉱石を売りにくる見慣れない一団……」


 ぶつぶつと、独り言を言って考え込むリツィア。

 暇な僕は無意識に、その肘の曲げ具合を観察する。


「なかなか、これはこれで味があるかな?」


「そう言えばっすけど、昨夜もですけど……

 ここら辺って、魔物も野生動物もいないっぽいっすね?」


「それは、ここが採掘場だったからかも知れないわ。」


「採掘場だといなくなるんすか?」


「一概には言えないけど、鉱毒や環境破壊によって、生き物や草木がなくなることがあるらしいわ。」


「ふ〜ん……

 なんだか怖い話っすね?」


「……怖い話?」


「だって、つまりは採掘場を作ると、生き物が住めない土地が出来るってことっすから」


「……確かにそうだけど、鉄は人類の生活基盤を形成するためには必須よ?」


「……なんだかリツィアさんって、先生みたいっす!」


「先生?」


「私の知らないこと、いっぱい知っているっす!

 だから先生っす!」


「……ねぇねぇ?

 この鉱脈、なんかカサカサ音が聞こえるよ?」


「音の聞こえる鉱脈なんて、聞いたことないですね。

 聞き間違いか、何か別の所から聞こえるのでは?」


 僕の言葉を聞いたリツィアが、確認のためか近くにくる。

 二人で壁に耳を当てて、しばらく待機してみる。

 かすかに聞こえる音。


「ほら、やっぱり聞こえるよ!」


「……なんでしょう、この音……不思議ですね。

 取り敢えず、状況が不明瞭です。

 少し早いですが……

 念のため、今日はここまでにして、一度外の拠点に戻りましょう。」


「まだ、夕方にもなっていないよ?」


「今日は初日ですから、無理はしないでおきましょう。」


「「は〜い」」


 なんとなく、どこか不安そうなリツィアの態度に違和感を感じたけど、調査なんてそういうものかと思った僕たちは、素直に入り口付近に設営した拠点に戻ることにしたんだ。




「ご飯出来たっす!」


 あれから、ゆっくりと拠点に戻った僕とリツィアは、ご飯の用意をサッシェに任せて、テントの前で今日の調査結果を話し合っていた。


「取り敢えず、僕が気付いたのは音かなぁ?

 たとえるとさ、壁の中に空洞があって、すごく小さな無数の音が反響している感じがしたよ。」


「……私には、そこまで聞き取れなかったわ。

 でも、空洞ね……侵食による空洞かしら?」


 あの音について、リツィアと2人で訝しんでいたら、ちょうどサッシェのご飯が出来たみたい。


「考えてみてもさ、今はわかんないよ。」


「……それもそうね。

 明日もう一度確認してみましょう。」


 取り敢えず、わかんないことより、ご飯が大事!

 明日また確認することにして、僕たち3人は賑やかに、サッシェの美味しいご飯を堪能した。

 テントや岩影の一部が小さく蠢く。

 僕たちは、その不自然な動きに気付けなかった……。



 調査二日目。

 僕たちは、昨日見つけた音のする場所を、重点的に調べてみることにした。


「おかしいなぁ、今日は音がしないね?」


「……空洞はどうですか?」


 リツィアのその言葉を受けて、僕は念入りに壁を叩いて耳を澄ませる。


「……うん、やっぱり空洞はあるね。

 ただ、昨日と違って音の反響がクリアな気がするかな?」


「よくわかりますね?」


「ご主人は変態的っすから、特定分野だけ凄いんっす!」


 僕のことをドヤ顔で、変態的という使用人ってどうなんだろう?

 サッシェの言葉に、微妙な感じで苦笑いしているリツィアが決断する。


「取り敢えず、ここでこうしていても仕方がないわ。

 注意して先に進みましょう。」


 リツィアの提案に同意して、僕たちは廃坑を進む。

 徐々に薄暗く、ジメッとしてくる坑道を進んでいた時、僕の耳にまたあの音が聞こえた。


「……待って、何か聞こえる。」


 僕の言葉に、一瞬で戦闘態勢をとるリツィア、さすが冒険者って感じだ。

 サッシェは……何故か僕を盾にするように、僕の背後に移動していた。


「……どちらからです?」


「ん〜、背後かな?

 まだかすかに聞こえる程度だけど、一応警戒は必要かも。」


「どうするっすか?

 背後からって、退路が塞がれたってことっすか?」


 不安そうな顔をするサッシェとは対照的に、リツィアの動きはとても落ち着いていた。



「しかし、やたらと分かれ道が多いっすね?」


「坑道ですからね。」


「坑道って、こんな迷路みたいなんすか?」


「普通の道と違って、坑道って鉱脈に沿って掘られるのよ。

 だから人が意識して作る道とは対照的に、こうやって入り組んだ作りになるのよ?」


 気を紛らわせるためか、先程からやたらと口数の多いサッシェ。

 それに付き合うかたちで、リツィアが色々と答えている。

 僕的には、あまり話し声が多いと、音を拾っての警戒がやり辛いから、ほどほどにして欲しいところだ。


「これって、迷子にならないっすか?」


「大丈夫よ、ちゃんと地図もあるし、分岐箇所には目印もつけてあるわ。

 よほど慌てて逃げたりしない限り、問題ないわよ?」


「なるほど、さすがはベテラン冒険者っす!」


 不安そうに話すサッシェを、落ち着かせるように優しくゆっくり話すリツィア。

 なるほど、こうやって警戒心を解くのか……今度ツェンあたりで試してみるかな?

 僕は2人のやり取りを聞き流しながら、壁や床を調べながら歩く。


「あとは、ここは廃坑だから無いと思うけれど、不審な出っ張りとか、少しだけ色味の違う床とかは、罠だったりするから押したり踏んだりしてはいけないからね?」


 リツィアとサッシェが話している近くで、僕はさきほどから気になっていた壁を調べてみる。

 さっき気がついたけど、この出っ張りがこの壁の造形美を阻害している気がするんだよね。


「……ふむふむ、ここの壁の造形、ちょっとだけ違和感を感じる。」


「違和感っすか?」


「うん、僕の美学的に、この出っ張りが不自然なんだよ。」


 そう言って、僕は不自然に出っ張っていた部分を指先で押してみる。


「って、ちょっと待って!」


 僕の行動に慌てたリツィアの声が響くなか、僕の押した出っ張りが『ガコンッ』と音を立てて引っ込んでいく……。


「……あ、動いた。」


 地響きみたいな音が床から響いてくる。

 心なしか、空気が震えている気がする。


「ちょっと、何やったのよ!」


「なんか床が震えている気がするっす!」


「大丈夫、大丈夫。

 僕にはこの結界があるからね。

 これ張っておけば、まず問題ないさ!」


 なんか慌てている二人に、僕は落ち着くようにあえて楽天的に振舞う。

 まあ、実際にこの結界が破れることはないと思うしね。


「な、なんか通路から黒いのが来るっす!」


「2人とも、戦闘準備!

 私が魔法で一撃入れた後に、サッシェちゃんが前衛で攻撃。

 聖女様は防御と回復、隙を見て浄化で殲滅!

 いい、来るわよ!」


了解っす!」


 慌てるサッシェの言葉を聞いたリツィアが、冷静に僕たちへ指示を出す。

 僕たちも、リツィアの指示に従って動きはじめた。



「来るっす!」


 サッシェのそのひと言とともに、僕たちが通ってきた坑道から、無数の黒い物体が溢れ出てくる。

 ひとつひとつは、数センチくらいの楕円形に無数の脚と2本の長い触覚みたいなのが生えた物体、それが数百匹ほどカサカサと音を立てて迫ってくる……僕の全身が震え、僕とサッシェが同時に悲鳴をあげた。


「「ひぃっ!」」


「……アイアンクローチ?

 聖女様、すぐに結界を張って!」


 リツィアの緊迫した指示が飛んでくる。

 僕は言われる前に、本能的嫌悪感に従い、悲鳴をあげながら坑道いっぱいに結界を張った。


「ひぃぃいっ!」


 結界一面に、アイアンクローチの群れが張り付く。

 黒光りする外殻が互いに擦れ合い、キチキチと乾いた音を立てる。

 その隙間から覗く無数の脚が、まるで“こちらを掴もうとしている指”のように見えたわけで……そんな光景が、僕らの視界いっぱいに広がっていた。

 そのあまりにもあまりな光景に、僕の美意識が悲鳴をあげる。


「ゾワゾワするっす!」


「気色悪い光景ね……」


 サッシェとリツィアも、かなり嫌そうな表情で感想を述べている。


「それにしても、アイアンクローチとは……また厄介な敵ね。」


「……厄介なって、どうしてっすか?」


「こいつら、金属が主食なのよ。

 でもって、身体も金属だから、剣で切れないし熱や風系の魔法もだめ。

 唯一効くのは水系統の魔法か、打撃武器で潰すしかないのよ。」


「……アレを一匹一匹潰すんすか?」


「そうよ?」


「嫌っす。

 それに、使った武器は廃棄したいっす。」


「……気持ちはよくわかるわ。」


「……こ、こんな奴ら、僕が全部浄化するから大丈夫さっ!」


「そうっす!

 ご主人様の出番っす!」


「あ、ちょっと……」


「お前たちなんか消えてしまえっ!

 浄化!」


「これで綺麗さっぱりっす!」


「……あれ?」


 結界の外側が浄化の光に満たされる。

 そして光が収まり、静寂が訪れ――無かった。

 

「……やったか?」

 

 次の瞬間。

 カサカサカサカサ……

 

「……え?なんでっ?

 なんでなんとも無いのさ!」


「な、なんか前よりツヤがある気がするっす!」


「……やっぱり。」


「やっぱりって何さ?

 僕の浄化が効かない理由でもあるの?」


「ぎゃぁぁあっ!

 こ、コイツら地面掘っているっす!」


「アイアンクローチって、魔物じゃ無いの。」


「へっ?」


「聖女様の浄化って、恐らく名前の通り魔を払う力なんだと思うわ。

 だから……」


「魔のモノじゃないから、効かないってこと?」


「いやぁぁあっ!

 掘ってる、結界の下掘ってるっすよ!」


「……そうなるわね。

 それに、私の得意魔法って火系なのよ。」


「……つまり、打つ手なし?」


「残念ながらね。」


「結界の下がっ!

 モコモコってなってるっす!

 いぃやぁぁあっ!」


 サッシェの悲鳴が坑道に響いた。

 リツィアが、結界の内側に沿って土魔法で壁を作り封鎖する。


「……おお、魔法だ!」


「こ、これでひと安心っす。」


「いいえ、逃げるわよ?」


 そう判断を下したリツィアが、封鎖した坑道の反対側、奥へと続く坑道へと走りだす。


「ちょっ、待って欲しいっす!

 置いてかないで欲しいっす!」


「僕的にも、置いてかないで欲しいなぁ!」


 そう言いながら、僕たち二人もリツィアに続けて走り始める。

 それから数分で壁が壊れた音と、大量のカサカサ音が後ろから響いた。


「きたきたきたっ!」


「いや、ほんと最悪っす!」


「コイツら、ビジュアルから習性から、ぜんぶ大っ嫌いだぁあっ!」


「今はひたすら走るのよっ!」


 まるで、一つの生き物のように蠢きながら追いかけてくるヤツらから、僕たちは全力で逃げ出した。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ