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7/22

乱ですか?

東京に戻る帰りの新幹線が富士山の横を通過する時、佳奈はオレンジジュースを飲みながら来海に聞いた。

「来海さんの使う”整”というのはその、、実際は、どういった力なんですか?」

来海は缶コーヒーを口から離すと、「うーん、、」と頭を抱えた。

「先日のあれ!、、えーと、なんだっけ、こきみし?こしみき?」佳奈はなんとなく思い出しながらそう口にした。

すると来海が、ほんとうに小さな声で

「こみきしこみきしならざれごとしたまみてまもらう、、だね」と耳打ちした

「はい!それです」佳奈が嬉しそうに言った。


「これは要約すると、この辺りにいらっしゃる金属の精霊(神さま)よ、失せた(失くした)物を元にお戻しくださいって意味なんだ」来海が説明する。


「じゃあ、精霊がネジを拾ってくれたんですね」

意外とすんなりと納得する佳奈。そして更に質問を来海にぶつける。

「じゃあ、他にも色んなところに精霊がいて、その力を借りたりするのが”整”って事なんですね」

佳奈がそう言うので

「まぁ、そんなふうに考えてくれていいよ……ほんとうはまず、その場所にどのような精霊がいるのかサーチをするんだけどね」来海は優しくそう返した。


佳奈たちの乗っている車両の前の方の席に若い男性が座っていた。

男性はヘッドホンで曲を聴いている。昭和の後期に流行っていた”ポータブルカセットプレイヤー”でだ。

彼の膝の上でクルクルと回っているカセットテープは”夜巳幻子プロデュース”の音楽ユニットの曲を奏でていた。

音楽が彼の耳から脳に伝わり、何かが覚醒してゆく。

男性はだんだんと顔の色を失ってゆき、青白く、そして額の血管が浮き出し、口からは泡を吹いていた。

そしてブツブツと何かを呟き始めた。

「ぬのだがしぬよこあらのしだしだけんをだみば」

その言葉を何度も何度も繰り返した。

男の声は放つたび黒いシミのようになって宙を漂うと新幹線の窓や、乗客のプラスチックのコップなど、、あらゆるプラスチック製品に染み込んでゆき、その形状を変化させていった。


全ての車両の窓が突然、液状化するようにドロドロと崩れ落ちていった。

時速200キロを超えるスピードで走っているので外からの風が急激に車内に吹き込み、突風のように渦巻いた。

「きゃあ!」乗車率は60%くらいだが、あちらこちらから怒号のような悲鳴が聞こえた。

佳奈も持っていたオレンジジュースを飛ばされ、窓側に座る来海に思わずしがみついて叫んだ「なにー!!これ!?きゃあー!」

来海は顔に当たる風を手で避けるようにしながら、溶けた窓をジッと睨んだ

『これは、もしかして”乱”なのか!?』


車内に突然大量の風が吹き込んで来たせいでガタガタと激しく揺れ、後ろの方の車両がギギギと唸りをあげて脱線しそうなほど揺らめいた。

緊急ブレーキがかかり、今度は乗客全員が少し惰性で前方に押し出される。

前の椅子に頭をぶつけてしまう客たち。それでもなんとか新幹線はゆっくりと減速をし、窓から吹き込む風もおさまった。

車内は竜巻が通ったかのようにいろんな荷物が巻き散らかされていた。

ヘッドホンで曲を聴いていた男は、上を向いて泡を吹いて亡くなっていた。


-----------

次の日の新聞の1面には『新幹線の不可解な事故』という見出しが踊っていた。

『原因不明、調査続く』

MHKのお昼のテレビ放送でも取り上げられアナウンサーが本日の新幹線の運休を知らせていた。

来海たちの工房は皮肉な事に、夜のニュース番組で使用する解説模型を大急ぎで作っていた。そう、新幹線の模型だ。

佳奈もまさか自分たちが乗っていた車両の模型を作るなんて思いもしなかった。

『来海さんはなにも言わないけど、ひょっとしたら昨日の事故は来海さんを狙った”乱”だったんじゃないのかな』佳奈はそんな事を考えながら、新幹線の模型を作る来海と君香の作業を手伝った。

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