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なんに使うの?

夜巳幻子(よみ げんじ)本人がここにいないので、”こちら”を水晶の前に置いてください」

サティは黒色に輝く石を差し出し、来海がそれを水晶の真正面の位置に置いた。

サティは香を炊き、水差しの水で手を清めると、銅色のコインのようなものを左手の中に納めて。

1呼吸ついてから言った。

「では、ミグトを始めます」



***

昭和50年代後半、音楽を聞くメディアといえはCDコンパクトディスクだった。

それまで長く続いたレコードの時代を過ぎ、日本のアーティストたちも平成元年頃にはほとんどがCDへと移行していった。

東京、渋谷。1981年に誕生した『パワーレコード』は地上6階地下1階の広い売り場面積を誇り、CD、レコード、カセットテープ、レーザーディスクなど音楽関係の商品を販売。イベントなどの催しも頻繁に開催する大音楽ビルだった。

「次に聴いていただくのは”JT2スピード”の『パラサイト』!」

パワーレコードの店内に例の”夜巳プロデュースユニット”の曲が流れる。人気曲なので1日に何度もヘビロテされていた。

その曲に呼応するように、店内の蛍光灯の内部で(かす)かなスパークが起こった。

更に、陳列されているCDがケースの中に入ったままゆっくりと回転した。

それらは、小さな小さな変化だったので誰にも気づかれることなく、静かに静かに(うごめ)いて育っていた。



***

「結果が出ました。夜巳幻子のミグトです。」

サティは目を閉じたままそう言った。

霊感も何も持たない佳奈の目にもサティの身体に漂うオーラのようなものが見えた。

金色の髪の毛はますますピンク色に輝き。(ひたい)の真ん中には不思議な文様が浮かび上がっていた。


サティは水晶キューブの東面に手をかざしてそっと指で印を結んだ、するとゆらゆらとした画面がだんだん鮮明になるような感じで何かが映り始めた。

赤い色、、爆発。そして燃えさかる街、、が映った。

上空から降り注ぐのは焼夷弾。それに、キノコ雲。その凄惨な光景をただ見つめている女性。

燃えさかる場所のあちらこちらから滲み出てくる黒いシミ。そのシミは手足の様なものが生えてきて、その辺りを駆け回り始めた。そしてだんだんと1箇所に集まってくると大きな大きなシミとなり、それに飲み込まれてゆく女性。焼けた街に響く彼女の絶叫。


「第二次世界大戦?」それを見た来海が思わずそうつぶやいた。

「憎しみや悲しみの色香が東面には現れている」愬山も辛そうな顔をして水晶を見つめていた。

「これが、夜巳幻子の過去?、、(さき)の大戦の怒りや憎しみ、悲しみが土地土地の小さき神に取り憑き、そしてその全てがこの女性に宿ったんだ!おそらく……この人は夜巳幻子の母親なんだと思う」来海が水晶の映像を紐解く。


サティは続いて、水晶の南面に指をやる。

夜巳幻子の現在の姿が映し出される。周りにいるのは男性の音楽ユニット、そして更に他のユニットが何組かいた。


サティは次に西面を指し示した。

水晶が夜巳幻子の未来の姿をゆっくりと映し出す。

『なにが映るのかしら』佳奈は来海の頭越しに水晶キューブを覗き込んだ。

「これはなんだろう?何かの機器なのかな?」愬山と来海が西の面に映ったものを見ながら頭を傾げる。

『なに?このアイテム?みんな持って何をしているのかな?耳に当てている人もいる。……電話?』

令和の時代には誰でも知っているそのアイテム、『スマホ』。それを夜巳をはじめ街中の人々が持ちながら過ごしている映像が水晶の西面に浮かび上がっていた。

来海にも佳奈にも愬山にも、映っている『スマホ』が何をするものかわかっていなかった。

「これには、いったいどんな意味があるのでしょう?」来海が尋ねると、愬山が「うーーん」と唸った。


サティは手を前に出し残りの水晶の面、上と下の映像を映し出した。

何故か、どちらともドロドロとした紫色のシミのようなものが映り、それが何を表しているのかわからなかった。


金色の髪を振りかぶり、サティは最後に胸の前で特別な印を結ぶとゆっくりまぶたを開き自分の目の前にある水晶の北面を見た。

彼女の美しい瑠璃色の瞳がすぐに恐ろしいほどゆがみ、額からは大粒の冷や汗が流れてきた。

サティは思わず顔を伏せて肩をガクガクと震わせると。

「これで、ミグトを終わります」と小さく言った。


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