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見えているんですか?

三重県にある霊山『釈迦ヶ岳(しゃかがたけ)』。

その中にひっそりとたたずむ小さな山小屋があった。

(ふもと)からは1時間の山道を歩いてようやくたどり着けるような場所だ。

水田愬山(みずたさくざん)はこの山小屋を”山麓庵”(さんろくあん)と呼んで愛した。

電気も上下水道もないこの小屋には、自然の全てが揃っていた。


来海は休日を利用して三重県までやって来ていた、愬山の山小屋に行くという話をしたら面白そうなので連れて行ってくださいと懇願してきた佳奈も一緒だった。


釈迦ヶ岳の険しい山道をゼイゼイと息をあげながら登る佳奈に向かって

「着いてきて後悔しただろ?」と笑いながら来海がそう言った。

「はぁ、はぁ、まだ着かないんですよね、、?」

来海よりもずいぶん遅れて一生懸命付いてく佳奈はかなりグロッキーのようだ。


ザザザー、涼しい風が木立をゆらし、その間から滝の落ちるような水音が聞こえてきた。

来海たちの足元はゴツゴツとした岩が多くなり、その先の抜けた空間に沢があった。

ジャブ、ジャブジャブ。沢には1人のおじさんがいて洗濯をしていた。もちろん洗剤などは使っていない水洗いだ。


愬山(さくざん)さーん!」来海がそのおじさんに向かって手を振った。

「あの方が愬山さんですか?」佳奈は疲れすぎて近くの大きな石に腰をおろした。

「遠いところをご苦労さまだったね」愬山が洗い終えた衣のようなものを抱えて来海たちの所に近づいて来た。

「若い人でもここまで来るのはしんどいよなぁ」愬山は佳奈の顔を見て少し笑った。

「はぁ」己の運動不足を再確認した佳奈だった。



山麓庵(さんろくあん)。外観は純和風の古民家のような(たたず)まいなのだが、なんと内装は西洋風の作りだった。

『えっ、不思議なおうち……』佳奈は小屋の中に入るなりキョロキョロと見回して目を丸くした。


ー長崎県にあるいくつかの教会は西洋人の指示のもと、日本人の大工が建築したという歴史がある。

そのため教会なのに瓦が使われていたりするのだ。ーそんなトリビアをなんとなく思い出す佳奈。

この『山小屋を建てた時のいきさつ』がとても気になりつつも、愬山と来海に(つい)て部屋の中へと入っていった。


ん……でも、よーく見ると西洋風の内装は日本の材料を使って(しつら)えられている。

例えば部屋の中に暖炉があるのだが、西洋の暖炉はレンガや色味のある石を積み上げたりして作るが、ここの暖炉は日本庭園に置いてあるようなねずみ色の石が使われている。

さらに、()()()()の横に付いている小さなステンドグラスのような窓もよく見ると和紙で出来ていたりした。

佳奈は初めて見る家の作りにワクワクして、すっかり疲れがどこかへ飛んでいってしまった。


愬山たちと共にさらに小屋の奥へと進むと

(まゆ)のような部屋があった。

その部屋の真ん中には大きなテーブルがドンと鎮座しており、周りに6脚の椅子が並んでいた。そして、その椅子のひとつに30代くらいの女性が座っている。

整った指でティーカップを口に運び、ひと口飲むと来海たちに気づいてカップを置いた。

美しい金色の髪は見る角度によっては少しピンク色にも感じる。顎が滑らかな曲線を描き、大きな切れ長の目は海の底のような瑠璃色をしていた。


『綺麗な人……』佳奈は見るなりそう思った。


「潤くんは初めてだったかな?」愬山が訊ねると

「はい、ただお噂はお聞きしています」来海はニッコリと笑いながらそう返した。

瑠璃色の目が柔らかくこちらを向いて、女性は立ち上がると「サティ・ガッフィー」です、ときれいな日本語で話した。

「来海潤です。こっちはアシスタントの早実佳奈です」

来海はそう言ったあと、サティの後ろを覗き込んで

「インドから連れてこられたんですか?」

「はい」彼女はそう頷いた。サティと来海はそんな会話をしているが、佳奈にはその『連れてこられたもの』がまったく見えなかった。


愬山が、来海と佳奈を椅子に座らせると紅茶を入れて持ってきた。

サティが使っているのと同じ美しいティーカップだった、それを見て思わず佳奈が微笑んだ。

「なんてきれいなカップ」

その芸術的なカップでアールグレイを飲みながら、みんなでひとくだり、ふたくだり世間話をしたり、ここに来るまでの道中エピソードを話したりした。


「さて、……サティがたまたまインドから日本に仕事で来ていたのでうちに寄ってもらったんだけど」愬山が少し落ち着いたトーンで話しを始めた。

「この間テレビに映っていたサングラスの男だが、、潤くんの推察通りあの男がプロデュースしている男性音楽ユニットが歌っている歌詞のほとんどが”乱”の要素を持っている言葉だった」

「うむ、偶然歌詞がそうなった訳ではないですよね」来海が深刻そうに言った。

「確率的にそれはないだろうな」そう答えながら愬山が一枚の紙を机の上に置いた

「その音楽ユニットが歌っている曲の歌詞だ、、注意して見てくれ」

来海はそれを一瞥(いちべつ)すると

「佳奈ちゃん、君は見ないでね!」と言ってササッとその紙を自分の手元に引き寄せて、佳奈に見られないようした。

「文字で見るだけでもヤバいものなんですね……呪いみたいなものですか?」佳奈が怖いようなちょっと見てみたいようなそんな顔をしていた。

「呪いよりももっとまずいかもしれません」サティが佳奈にそう言うと足元に置いてあったバッグの中に手を入れて”布に包まれた何か”を取り出し、そっとテーブルの上に置いた。

「”ミグト”ですね」来海がそれを見てサティにそう言った。

「はい」サティがゆっくりと布をめくるように広げると中から水晶が出てきた。

西洋占星術で使うような丸い水晶ではなく四角いキューブ状の水晶だ。

「四角い水晶なんて初めて見ました」佳奈がたまらずそう言った。


「これはミグトという占いで、、今サティは北に座っている。サティの目の前に置かれた四角いキューブは東西南北それと上下にそれぞれ平らな面がある事になる。サイコロの面みたいにね」愬山が佳奈にわかりやすいように説明を始めた。

「佳奈ちゃん、、サティさんの正面に座ってごらん」来海が椅子を少し動かして佳奈がサティの真ん前になるようにした。

「今、佳奈ちゃんの前には水晶の南の面が向いているね。この状態で、例えば佳奈ちゃんがサティに何か相談をするとしよう……占いのね。。『これから先、いつ結婚できるか?』なんて事を、、例えば、だよ…………」愬山がそんなセンシティブな事を言うので佳奈は焦りまくった。

「それ、本当に占いましょうか?」サティまでそんな事を言い出した。

「きゃーやめてください!」佳奈は両手を振って顔を赤らめた。

「ははは、あくまでミグトの説明だから」来海も笑って佳奈に優しくそう言った。


サティが水晶の前に正しく座り直すと、両手を出して指で印を結び佳奈に語り始めた。

「水晶のそれぞれの面の説明をしますね、佳奈さんから見て右側の面(東面)に映るのが過去の事柄です、佳奈さんがこれまでに体験してきたことが表示されます。

佳奈さんの正面に見えている面(南面)ここには現在の佳奈さんの姿が映ります。(まさに目の前の水晶に鏡のように映っているのは現在ここにいる佳奈であった)

佳奈さんから見て左の面(西面)に映るのが未来の状態です、佳奈さんが将来どうなってゆくのかが表示されます。

そしてキューブの上面、ここには佳奈さんが行う選択の中で一番最良の状態が表示されます。

反対にキューブの下の面、ここには佳奈さんが行う選択の中で一番最悪の状態が表示されます。」

(キューブは台座の上に乗っており、その下には斜めになった鏡がついていて下の面も見ることができた)


そこで一旦説明が終わった。……が、佳奈が気になって質問をした。

「あの、……サティさんの側、水晶の北面には何も表示されないんですか?」

サティの説明になかった面の事を聞いてみた。


「その面に表示される内容はサティさんも言葉にすることが許されていないんだ、例えば佳奈ちゃんの事を占ってもらうと、北面には佳奈ちゃんの亡くなる日やその詳細な情報、とか、、あとはそれ以外だったらもっとなにか重大な事柄……とまぁ、本人が知らないほうがいいような内容が映し出されてしまう、それを見ることができるのはサティさんだけで、しかもサティさんは誰にもそのことを言ってはいけない事になっている」来海が追加でそう解説をしてくれたが、それを聞いて正直佳奈は怖くてたまらなかった。


愬山がそんな佳奈を違う椅子に移動させて、ゆっくりとした口調でサティに本題を告げる

「このミグトで、あのサングラスの男を占ってほしい」

さっきまで優しかった愬山の顔が岩のような険しさとなり、そう口にした。


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