教えてもらえますか?
「僕のばあちゃんは日本人だけどオーストリアに住んでたんだ。
チェコとの国境近くだって聞いてる。その場所には”ベーマーの森”っていう深い森があって、ばあちゃんは子供の頃その森で迷子になったらしい」
今日は富士山テレビに行ってきたのでお昼を食べ損ねてしまった”SOra工房”の3人は、ようやく渋谷に帰って来て15時になった今やっとご飯にありついた。
来海は意外にもお弁当持参なのでそれを食べている。君香は調理パンみたいなのをいくつか、、そして佳奈はコンビニで買ってきた小さなお弁当だった。
食事中、佳奈があんまりしつこく尋ねるので、来海は”魔法”についての話をする事になったのだ。
「ばあちゃんはそのあと行方不明になっちゃって、村中の人が森を探したんだけど見つからなくて。野生のオオカミにでも食べられたんじゃないかってことで、捜索が打ち切られたんだ。
そしたら1週間くらい経ったある時、ひょっこりと帰ってきて家族をびっくりさせると、その日からことあるごとに何かをぶつぶつと呟くようになったんだって……」
「それって、来海さんのさっきの呪文みたいなやつですか?」
佳奈がそう聞く。
来海はちょうどお弁当を食べ終わり”ごちそうさま”の所作をして、シンクに空の弁当容器を持って行くと軽く水で洗い流した。
「古い話だから何を言ってたかまでは分からないんだけど」佳奈と君香の所に戻り、お茶をすすりながら来海は話を続けた。
「どうやらばあちゃんは行方不明になっていた1週間、魔女と暮らしていたみたいなんだ」
「そこで魔女が出てくるんですね」今度は君香が聞いた。
「あれ?君香さんは全部知ってるんじゃ?」佳奈が不思議そうに尋ねる。
「来海さんが魔法使えるって分かって、すごいなーって思って、それだけ……由来を聞いたことなんてないし、、」君香の返事に『それで納得出来ちゃう君香さんもすごいな』と佳奈はそっちにも驚いた。
「ばあちゃんはその魔女から”魔法”とはなんぞやってのを教えてもらったらしい」来海は続ける。
「西洋の、特にヨーロッパの上の方では
魔法というのは、”この世界にあまた存在する精霊の力を借りる方法”っていうのが多いんだ、、だから魔法の呪文というのは簡単に言うと人間が『精霊さん、こんな事してくださいお願いします』っていう指示文みたいなものって事だね。
大昔の人間は精霊と言葉を交わせるように、いろいろと研究を重ねて呪文という形にしたんだろうね。
でもさ、
とはいえ精霊は人間の願いを『はい分かりました』と簡単に聞く理由もない」
佳奈は夢中になって聞きながらふむふむと頷いていた。
「そこで、昔の人は精霊との契りをかわしたのさ。
いわゆる契約ってやつだね。
人間がこの星のほとんどの事を司るようになってくると、世界の秩序が少しずつ乱れてきてしまった、、魔法っていうのは元来その秩序を正すためだけに使われてきたんだ。
人間は精霊たちと『世界の秩序を守る』という約束をするかわりに魔法を使えるようになっていったらしい」
『秩序?』佳奈が分かるような分からないようなこの言葉に頭をひねった。
「そこについては、一言で説明するのが難しい部分もあるからおいおいね」そう言って来海は話を進める。
「だいぶ端折るけど、僕の母親はオーストリアで生まれたんだけど、すぐに日本に連れて来られたみたいで、、詳しい理由はわからないけど第二次世界大戦前のゴタゴタでそうなったみたいだね。
母親はばあちゃんの魔法の事を小学生くらいの時に聞いたらしく、強く関心を持って自分も魔法を使ってみようとしたんだって、、だけど精霊の呪文は日本では意味をなさなかった」
『日本には精霊がいない?』佳奈はすっかり話に聞き入っていた。
「しかし、母親はある文献を読んだ時にハッと気がついた、日本で言う精霊とは『八百万の神』だ!ってね。
それから母親は八百万の神に通ずる言葉、、例えば、祝詞や祓詞みたいなものを研究したらしい。
そして八百万の神に通ずる『整』という呪文をまとめたんだ。
結局のところ、秩序を整える『整』っていうことみたい。
『整』を使って、戦中戦後の大変な時代に人々の役に立つ仕事をたくさんしてたって、、いろんな人がそう話してくれた」
「来海さんもその”整”を使ってるんですね?」佳奈が聞くと。
「それが、、現代の八百万の神はそれが通じない時もあって……特に、新しい科学技術の製品なんかに宿っている神様には……」来海が工房に置いてある小さなテレビを見つめながらそう言った。
「そうなんですね」佳奈もテレビを見つめた。
「さて、仕事するか!」来海は立ち上がり、リモコンに手を伸ばすとそのテレビの電源を入れた。
来海たちの仕事のひとつに『解説模型』というものがあった。CGが死ぬほど高価だった平成の時代、例えば電車の脱線事故や火山の噴火などの災害が起こった時、ニュース番組で解説する為に模型を使っていたのだ。解説模型はとにかくスピードが重要で、朝注文を受けて夕方のニュースの生放送で使うという事も多かった。
いつ事故や災害の情報が入っても分かるようにテレビはいつもつけていたのだ。
そのテレビに、どこかで見たような男が映っていた。高級そうな服に威圧感のあるサングラス、あの富士山テレビの地下にいた男だった。
来海は何故か、その男から目が離せなくなっていた。『この男が纏っているものはいったいなんなんだ』
来海の目にはその男にまとわりつく不気味で妖々としたものが見えていた




