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誰でも出来るの?

湾岸エリアにある富士山テレビに着く直前、レインボーブリッジを渡ったので佳奈のテンションはかなり上がった。

彼女にとって”これぞ東京!”という景色が広がっていたのだ。海に面した近代的な街並み、東京タワーや停泊している巨大タンカー。

「すごーい!」

真ん中の補助席だったので両サイドの景色は楽しめなかったが、それでも十分だった。


富士山テレビの地下駐車場にタートルを停めると、来海は重そうな工具箱をヒョイと担いだ。

2人の助手を引き連れながら(と言っても1人は今日がデビュー戦なのだが)入口の受付で手続きを済ませた。

*今では考えられないが、平成元年頃はテレビ局のセキュリティもそんなに厳しくなく、入館パスを持っている人が「この人も同行します」と言えば申請していない人の1人や2人、お(とが)めなく入れさせてもらえたのだ。

そんな訳で、急遽参加した佳奈もすんなりと局内に入ることができた。


エレベーターで上の階に登ってゆく、巨大なテレビ局の建物。そのど真ん中に三角の形をしたフロアがあった。外から見てもそこだけ不思議な形だと思えるその部分が、キャラクターの展示エリアとなっていた。

そこは見学者コースにもなっていて、一般のお客さんも入れるところだった。

「わぁ!」

佳奈も見た事のある人気のキャラクターが5体、周りをカラフルな装飾に彩られそれぞれいろんなポーズをして閲覧者(かんらんしゃ)を楽しませる作りになっていた。

『ムムックとチャチャピンだぁ!』

よく知っているキャラクターがいて心が弾んだ。

「これも来海さんが作ったんですよね?」

佳奈の言う通り、この有名なキャラクター2体も来海が製作したものだった。

「そうだね」

来海がムムックの背中のモシャモシャした生地をめくって、中に見えるネジにドライバー(ねじ回し)を差し込みくるくると回して外す。

それを4箇所やると、背中の一部がパカっと外れた。


「これ、持ってて、無くさないでね」来海は今外した4本のネジを佳奈に渡して、開けた背中の穴から内部のメカを覗き込んだ。

君香は工具箱の中からウエス(ボロ布)を取り出して、それにアルコールを染みさせてキャラクターたちの手をゴシゴシと拭いていた。

一般客の、特に子供たちはここに来るとキャラクターと握手したりして楽しむ。

なのでキャラクターの手は時々拭いてやらないとすぐに真っ黒になってしまうのだ。

佳奈は1人手持ち無沙汰となり、来海の仕事を覗き込んで見ていた。

「佳奈ちゃん、工具箱の懐中電灯を取ってくれない?」来海はムムックの背中の中に頭を入れて内部のメカを確認していた。だが、どうも奥の方が気になるみたいなのだが、暗くて見づらいようだった。

佳奈が懐中電灯を持ってきて来海の頭の上から中を照らしてあげた。

「おーサンキューサンキュー!」

来海はムムックの足の方の関節部分に潤滑油を少し流し込んだ、そして手でコキコキと人形の足を前後に動かした。

「ちょっと確認するために電源を入れて動かしてみるよ」来海はそういうとムムックの中から頭を出す。

佳奈も懐中電灯のスイッチを消そうとして指を動かした時、さっき預かったネジをポロリと落としてしまった。

「あっ!」不覚にもネジを手に握ったままその手で懐中電灯を持っていたのだ。

カランコロン、カラン……ネジが2個、ムムックの内部メカの足の方に落ちていってしまった。

「ごめんなさい!」佳奈は凍りついた、初めて任されたこんな簡単な事ですっかりやらかしてしまった。

来海は佳奈から懐中電灯を受け取ってムムックの背中にまた頭を突っ込んだ。

「ほんとうにすみません」佳奈は頭を下げた。

来海が懐中電灯で照らしながら出来うる限り中を探したが見つからなかった。

「まいったな」来海がそういうと君香が近づいて来て「確か4㎜の皿ネジですよね?長さは?」と来海に尋ねる。

「20㎜」

来海たちの工房は基本的に業界標準の(しゃく)という単位と(ミリ)という単位を使っていた。20㎜はもちろん2㎝のことである。

「スペアのネジでフタを元通りにはめることは出来るけど」

来海がそう言うと、お目当てのネジを工具箱から持って来た君香がこう言った

「メカの機構にネジが挟まっていたらヤバいですね」

ムムックは電源を入れると機械仕掛けで手や足が動くようになっていた、もし落ちたネジがメカの動きに影響を与えてしまうと、最悪壊れてしまう可能性もある。

「足の先ですよね?かかとの方かな……」君香が外側から足の状態を確認した。ネジが中に落ちた左足は軸足なので地面にしっかりとボルトで固定してあり、ネジ(それ)を本格的に探すとなると床の装飾をひっぺがさないといけなくなってくる。

「困りましたね」君香が言うと佳奈は穴があったら入りたい心境になった。

「まぁ、たぶん大丈夫だとは思うけど、このまま電源を入れるのも怖いしな」来海は中を覗いていた顔を外に出し、懐中電灯のスイッチを一旦オフにした。


「こみきしに頼みます?」君香は来海の顔を覗き込んでそう聞いた。

「こんなくだらない事で?」来海は躊躇してそう言った。

佳奈にはなんの話かわからなかった。


「じゃあ床を引っぱがします?」君香が少し微笑んでそう言うと、来海はハァと息を吐いて『仕方ないな』という感じで、、顔の前に指を2本立てて「こみきしこみきしならざれごとしたまみてまもらう」と言葉にした。

何も起こらない、佳奈がそう思った瞬間。ムムックの背中からポロリと外に何か落ちてきた。

「ネジだ!」佳奈が近づいて拾い上げる。ネジが2本ともちゃんと出てきた。

「えぇ!?魔法!?」佳奈が叫んだ。

「さすが!」君香はピースサインを指で作った。



なんとか作業を終えて地下駐車場に降りて来た3人。

受付を過ぎてタートル号に向かおうとしていると、地下の車寄せのところに高級そうな黒い車が停まった。

ここの入口は芸能人とかも利用するのでそういう関係者かと来海は思った。

黒い車の後ろのドアを運転手が開けると中から仕立てのいい服を(まと)った50代くらいの男性が降りて来た。

3人とはだいぶ距離があったのだが、来海は背中に冷たい氷を押し付けられたような寒気さを感じた。

『こ、、この感じ』

来海は慌ててその男を見た。が、すでに館内に入り受付の方へと進んでいた。

来海は気になりながらもタートルの方へと歩いていった。



帰りの車内では佳奈が来海に向かって質問攻めをしていた。

「魔法って、なんなんですか?来海さんだけが使えるんですか?君香さんはどうなんですか?子供の頃からできたんですか?」


『また、長い話をしなくちゃならないのか……』来海はハンドルを握りながらそう思った。


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