日系アメリカ人?
来海はその名前を知っていた。
そう、柿の葉茶ぐるぐるの粕谷おばあちゃんの家で、封筒の中にしまわれていた夜巳4兄弟の名前をしっかりと覚えている。
『夜巳苦奴蘭』は確か長女の名前だ。』
朝食を食べている時、テレビから流れる『アメリカ大統領補佐官のニュース』にその名前が出てきて来海は驚き、声をあげた。
やはりそうだったか、愬山の心配はその通りになった。
そして来海にこう言った
「粕谷さん、4兄弟の事をずっと調べてくれてたんだな、頭が下がるよ」
もの想うように少し上を見つめる愬山。
「夜巳苦奴蘭はアメリカで何をしようとしているのでしょう?」
来海が愬山に伺う。
「わからん、、ただ、我々にとっていい事ではないだろうな」
愬山が箸をのばし、目玉焼きを頬張りながら目を伏せてそう言った。
カララン。小屋の入口には竹で出来ている鳴子が付けてあり来客者があると知らせてくれる仕掛けだった。
メグミと君香以外、全員リビングで朝食をとっていた、その中で1番玄関に近い風太が席を立って様子を見に行った。
少しすると玄関の方から風太の叫び声が聞こえてきた。
「愬山先生ー!」
リビングに居た全員が玄関に急いだ。
「あぁ、、」 佳奈が口に手を当てて声をあげた。
小屋の入口に血だらけの女性が倒れており、風太が膝をついて抱き起こしていた。
「愬山、、せんせ、、い、、」女性は虫の息で愬山を呼んだ。
「おぉ!霞さんじゃないか!しっかりして!いったい何があったんだ?」
愬山が慌てて駆け寄り、霞の手を握った。
「九州の、、2人、、と、中国、四国の、、4人、やられました」
岐阜から来た霞と、九州・四国・中国地方の弟子たちは合流して来ると愬山は聞いていた。
「てき、、は、き、、、つか、い、、」そこまで言って霞は息を引き取った。
「霞さん!!」
愬山の目に涙が浮かぶ。
霞は一生懸命に愬山の後を追い、”整”の修行も楽しそうに頑張ってきたまさに愛弟子であった。
「う、、うぅ、、」
愬山の咽び泣く声。
玄関に集まった全員が目を伏せた。
***
静岡県。とある大学の教壇に立っている1人の男。
「さて、ここまで話してきて皆さんに質問です」
そう言うと男は鉛筆を1本差し出す。
「この鉛筆に、知性や心はあるのか?」
少しだけザワつく教室、『あるわけないよな』という声があちらこちらから聞こえてくる。
男は鉛筆を机に置いて
「人間の身体は、どんなに細かく切り割いていっても、知性や心があるという証拠は一切出てきません!あるのはタンパク質や脂肪、アミノ酸、、脳の中にもただ電気信号を流すための神経細胞があるだけ、、結局は有機物の塊です。ではこの鉛筆はどうでしょう? こちらも同じくただの有機物の塊です。。なのに、みなさんがつい人間には知性や心があると思ってしまうのは何故でしょう? もしその考えが正しいのでしたら鉛筆にも心があると言っても良いのではないでしょうか?」
授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り生徒達が教室から出ていく中、1人の女生徒が男に近づいてくる。
「夜巳先生、先ほどのお話とても興味深かったです。以前先生が話されていた『万物には神が宿っていても不思議じゃない』というものに通ずるところがありますね!」
女生徒が話しかけている”先生”と呼ばれるこの男は夜巳4兄弟の次男、武迅であった。
細いシルバーフレームの眼鏡。その奥の瞳が女生徒を品定めしている。
「今度の金曜日に、八百万の神を呼び出す会というのをやるんだが、よかったらいらっしゃい」
武迅はにっこり笑うとそう言った。




