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しゃべりますか?

小屋の中で縛り上げられているマミヤは神妙な面持ちでいた。

最強と思っていた厥狐がああも簡単にやられてしまったのだ、無理もないだろう。

マミヤ(かのじょ)には先ほどから夜巳兄弟の事を尋問しているが、断固として口を開かない。


 風太と流星は旅の疲れと先ほどの戦いの汚れを落とすために風呂に入り、それ以外の者はリビングに集まって話をしていた。

その部屋の隅、座った状態で柱に縛り付けられているマミヤは愬山達をジッと睨んでいる。呪文を唱えられないよう口には猿ぐつわを付けられていた。


ソファに座っている来海が机の上に置いてあるマミヤのムチを眺めて

「なるほど、これ、ムチを振るうと呪文が増幅されるような仕組みになっていますね、、よく出来てる!」

と、変なところに関心していた。

君香と佳奈もそれをじっと眺めていた。モノ作りをする人間にはささるところがあるのだろう。


愬山がゆっくりとソファから立ち上がりマミヤの側まで行くと、グッと猿ぐつわを外して、再三聞いている質問をもう一度した。

「君が夜巳幻子の秘書だというのは名刺や手帳を見ればわかる。もし、夜巳4兄弟の事……例えば特徴とか何でもいいので教えてもらえたら君の事を悪いようにはしない!……なぁ、君はもともと”乱”とは関係のない普通の人だったんだろう?」

穏やかな口調で愬山がマミヤの顔を覗き込む。


しかしマミヤは変わらず拒み続ける。

「私は幻子さまの秘書だ。誰がお前たちなんかにペラペラと喋ったりするものか!」


そんなやりとりの最中、風太と流星がお風呂からあがってリビングに戻ってきた。

「やっぱり何も喋らないですか?」

風太がマミヤを見ながら言った。


「俺が少し締め上げてやりましょうか!」

流星がそう言いながらマミヤの腰のベルトを持ち上げて立たせようとする。

「流星さんダメですよ!」

風太がそれを止めようとしたその時、マミヤのベルトが黒く発光した。


「えっ?な、、なに?」

1番驚いているのはマミヤだった。


流星は慌ててベルトから手を離して

「うわぁ!このベルトには怨霊が宿ってる!」と叫んだ!


火がついたようにみんなが声をあげリビングに緊張が走った!


「うわぁ、うわぁ!」

マミヤが悲痛の声をあげている。

ベルトは黒いオーラをまといつつ、ギリギリとマミヤのウエストを締め上げていた。


「う、うぅぅ、、まさ、、か、そんな、、幻子さま、、が、私、、を?」

声も絶え絶えにマミヤはそう声にすると、ベルトはさらに締めつけマミヤ(かのじょ)はガックリと腰から上を前に倒して事切れた。


「なんて強い念だ!」流星はベルトから舞い上がる黒いオーラを見て思わず後ずさった。

その黒いオーラはしゅるるっとベルトから離れて蛇のように動き回ると、いきなり君香の方に飛んで行って彼女の鼻と口の中に入って行った。

「うが!」後ろに倒れ込む君香。


「君香さん!」

佳奈が悲鳴のような声をあげる。


「いかん!誰も近づくな!」

愬山が皆を静止させた。


ばたりと仰向けに倒れた君香は、2秒後、手も使わず体をねじることもなくスッと立った。

それはまるで倒れたドミノが逆回転で起き上がるような感じだった。


目に光がなく真っ黒な眼球、そして額には青い枝を伸ばすように血管が浮き出てきて、顔の色は青黒い。もうすでに君香は君香でなくなっていた。


「君香さん!」佳奈は泣きそうになっていた。


「下がっていなさい!」

そんな佳奈を愬山が引き離す。


「「ふふふ……長い時がかかってしまった。」」君香が無表情で何かを喋り始めた。


「えっ?君ちゃん、、」

来海は声をつまらせる、君香の口から出ているこの声の主は一体誰だ?


「「ふふふ……私の母、夜巳名児耶(よみなごや)がお前たちの母親”清美”に封じられてからもう30年近くが経ってしまった。その間にこの日本は腐りきってしまった。精霊や神の存在を(ないがし)ろにして金を稼ぐことに明け暮れていった」」

無表情で言葉を発する君香を見て

『これは!夜巳幻子の言葉だ!』と来海は気づいた。


「「我々は全身全霊をかけてお前達を駆逐して、この世界の本当の秩序を取り戻してみせよう!待っているがいい!」」リビング中に幻子の黒い声が響き渡った。


そう言うと、君香はまたバタリと倒れた。

君香(かのじょ)の身体から、黒いオーラがパァーっと飛び出し天井の辺りまで登って行くとスーッと消え去った。

おそらく、マミヤが拘束された時に発動する呪文がベルトに封じ込めてあったのだろう。

それはマミヤを殺し、我々にメッセージを届けるという恐ろしい呪文であった。


双子の男子、川江萼(かわえがく)(らい)が気絶している君香を寝室へと運んでいく。


残っている男性たちでマミヤの亡き骸を外に運び出し、愬山が供養をすると丁重に火葬した。


立ち上る煙が月まで登って行った。



***


翌日の朝。

明神山が白い霧に包まれている。

空に雲が少ないと地面の熱が上空に逃げて水蒸気がたくさん発生する。それが雲海のように山を覆っていたのだ。


愬山が小屋の雨戸をよいしょと開け放つと、明るい朝日が部屋の中へと差し込んだ。


愬山は情報を得るためにテレビのスイッチを入れた。

この時間は今日の天気を知らせる女性アナウンサーが登場する事が多い。

ピッピッとチャンネルを切り替えて朝のバラエティ情報番組を幾つか過ぎると、アメリカのニュースが入ってきた。

『日系のアメリカ人女性が大統領の側近に選ばれた!』というニュースだった。

気にもとめず愬山が朝食の支度に取りかかろうとした時、そのニュースに聞き覚えのある名前が出てきた。

大統領の側近に選ばれたのは、”夜巳苦奴蘭(よみくどら)”で日系の女性が選ばれるのは初めてとの事。

そんな内容だったがそれを聞いた愬山の顔は青ざめていった。


「夜巳苦奴蘭?、、夜巳、、まさか!」


アメリカの出来事だ、日本で起きている事件とはきっと関係ない!たまたま同じ名前なだけだ。

愬山は小さい不安を胸におさめ、朝食の玉子焼きを焼き始めた。


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