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邪悪神?

厥狐(けっき)は森の中を高速移動しても猫のように静かだった。木々の間も身体を柔らかく曲げてすり抜けてゆく。

マミヤはその厥狐の背中にまたがりムチを振り上げている。地面には蛇やムカデ、毒虫、狐や山犬などが走ってあとを付いてくる。


”整”や”乱”の使い手には特性の様なものがあった。

正確に言うと声の周波数である。

この世界にあまた居る精霊(神)に呪文を届けようとしても周波数によってはこちらの声が精霊に聞こえないという事もある。

スクランブル交差点で信号機を操ったメグミの声は高く、金属や炎の精霊たちによく届く声なのだ。

一方、一度に複数の精霊と通じる事が出来る来海は、1つの言葉を発する時に周波数の違う声を混ぜながら唱える、これは遊牧民などが用いる”ホーミー”のようなものにも似ていた。

そして、厥狐の上のマミヤと言うと、動物の精霊によく通ずる周波数の声を使っていた。この声が聞こえる範囲であればおそらく昆虫、節足動物、哺乳動物などを手足のように使うことが可能だろう。


マミヤがムチを大きく頭の上で回し、ピタリと止めた。その動きと同時に走っていた厥狐や獣たちもサッと止まった。


100m先に石の階段が見え、その先こそが愬山達のいる小屋の場所であった。

ニヤリと笑みを浮かべるマミヤ。

まずは小さき獣どもを小屋に放ち、飛び出して来た来海達を厥狐に始末させる。出てきた瞬間ならば呪文を唱える暇もないだろう……

マミヤはムチを振り上げて戦いの狼煙(のろし)をあげ、、


「あれぇーー?これはなんの集まりですかぁー?」

そんなマミヤの後方から軽い感じの男性の声が聞こえた。

マミヤが慌てて振り向くと

(せん)だって来海達が(のぼ)ってきた山道を、今2人の男がスタスタと(あが)ってきた。

前を歩く20代後半の男は夜なのにサングラスをかけ、少し伸びた坊主頭に幾何学模様の剃りこみを入れている、身長は高くゆうに180cm以上あった。

その男がマミヤに向かって話しかける

「もしかしてー、愬山先生達を狙ってたりするのかなぁー?それだと困るなぁ、、先生は俺の師匠なもんでね」

厥狐も振り向いてガルルと喉を鳴らした。

「ちょっと、流星(りゅうせい)さん!揉め事を起こす前に愬山先生にちゃんとご挨拶をしないと、、」

後ろを歩いてきたもう1人の男がそう言って止める。彼はそんなに身長が高くなく157cmくらい。度の入った厚めのレンズの黒縁眼鏡をかけていて、髪の毛も耳にかからない感じでいわゆる優等生タイプの雰囲気であった。年齢は24歳くらい。

「でもさー、風太(ふうた)くん。こいつらのいる所を通らないと愬山先生の元に行けないよーー」流星はそう言うと優等生の風太に振り返った。

「うーん、困ったなぁ、、結界があるから大丈夫だって聞いていたんですが。。でも、確かにこれじゃ進めそうにありませんね……はぁー」風太が頭を掻きながらそう言う。


「何をゴタゴタ言っている!」マミヤが見かねてムチを振り上げて、地面に叩きつけた!

すると、そこらじゅうにいる虫や獣達が動き出して流星と風太に襲いかかってきた!


「もう、仕方ないですね、さっさと済ませますか、、」風太がそう言うと、流星も「おっしゃー!」と言って呪文を唱えた!

ズズズズズズ、、地鳴りがすると、地面を突き破り何かが飛び出してきた!ドゴゴゥゥ!

それは木の根っこだった。周りにそびえ立つ杉の木々、そのたくさんの根っこが地面を突き破って地上に湧き出てきた!まるで無数の手が飛び出してきたかのように!

その地面の揺れで虫や獣はまっすぐ走る事も出来ずに体制を崩した。そんな戸惑う小さな生き物達を次々に木の根っこが叩き潰していった。バシ!ブチ!バン!

容赦なく振り下ろされる大量の木の根っこ。そこらじゅうにいた虫や山犬、狐などはあっという間に駆逐されていった。


「こ、、こんな!」

マミヤは狼狽(ろうばい)してムチをくるりと回し厥狐に呪文をかけた。


「ガルルァー!」

ひと唸りすると厥狐はダッと駆け出した。

大きなストライドで身体をしならせ2ジャンプほどで流星たちの前までやって来ると、猫パンチのように振りかぶり鋭い爪を風太の頭部目掛けて振り下ろした!

風太は目を閉じ、二言呪文を唱えた。

ビューー!

そこらじゅうに吹く風が1点に集中したかのように強い風となって厥狐の振り下ろす手に当たった。

猫パンチは見事に(それ)に弾き返され、厥狐も身体ごと数m後ろへ仰け反った。


今度は流星が手を上へ振り上げる!と、厥狐の周りを囲んでいる杉の木がバキバキと倒れこんできて、厥狐(それ)を押し潰そうとした、、が、厥狐は柔らかい身体で何とかスルリとその攻撃をかわし、逆に木を足場のようにしてピョンピョンと飛んで回り、最後に大きくジャンプをすると愬山小屋の前の開けた敷地に降り立った。


「ガルル!」

厥狐は猫がそうするように、自分の手をペロペロと舐めた。

風とはいえ、風太によって1点に集約された”空気弾”が当たったのだ、厥狐(かれ)の手にも少なからずのダメージが入ったようだ。


「ガルルォォー!」厥狐は身体を大きく上に向け、月に向かって吠えた!

まるでこれから本気を出すぞーという雄叫びにも思えた。


その厥狐が、ハッと何かを感じて小屋の方を振り向いた。

薄暗い闇の中から、1人の男がゆっくりと厥狐に近づいてくる。

身長は170cmほど、髪の毛は剃ってありツルツルの頭だ、僧侶が身につける袈裟(けさ)を普段使いにアレンジしたような衣をまとい、白い顎髭(あごひげ)をたくわえた四角い顔の老人。

そう、愬山その人であった。

「流星くん、風太くん!長旅ご苦労さま。奥で休んでくれ!」愬山はそう言うと柔らかな顔をして笑った。


「愬山先生ー!!お久しぶりです!!」風太も笑いながら近づいてゆく。

「先生!」流星もそれに続いた。

なんと2人は厥狐の目の前を通り過ぎて愬山の元へと走っていく、、呆気にとられる厥狐。


それを見て

「愬山!?おぉ!ようやく見つけたぞ!愬山!」マミヤが声をあげた!そして、

「厥狐よ!奴こそ倒すべき相手!行けよ!」とムチを振るった!


「ガルルァァァ!」

厥狐は身体を一度縮め、その後大きくジャンプした。

巨体が高く空に舞い上がったせいで月が隠され一帯が暗くなった。

愬山は一言呪文を唱え、指を1本伸ばした。

この開けた場所にある大小様々な大きさの石が全てカタカタと動き出し、ビュン!と弾丸のような速さで厥狐目掛けて飛んでいった。

数千個の石が(つぶて)となり厥狐の身体を一気に貫いた。

「グルァ!」その叫びを最後にふたつ首の狐の邪悪神は粉々に散った。

そして、小さくなった肉片がボトボトと地面に落ちてきた。

それを見てマミヤが震え上がる。

「な、、な、なんて、こと、、」ボディコンの身体が膝から崩れ落ちて、地面についた。


肉片が落ちてきた後、最後に水晶のような玉がゆっくりと落ちてきた。よく見ると表面には(すす)のようなコールタールのようなものがベッタリと付いており、本来の輝きを損なっているように見えた。


愬山はそれを拾い上げると、、

「今度はきちんとおまつりいたしますゆえ、邪悪な怨念をお鎮めくだされ」と、水晶の玉に向かって頭を下げた。


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