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17/22

全員ですか?

霊峰、明神山みょうじんざん

標高1016m。その山の中腹、登山ルートから離れた場所に小さな小屋があった。

(ふもと)の駐車場からは歩いて40分くらいかかる。

愬山(さくざん)も、メグミがこんなに傷だらけで来るのだったら、違う場所を待ち合わせに指定しただろう。

来海はメグミを抱え、ハァハァと息を切らせて山道を登りなんとか時間通りに愬山のもとに着くことが出来た。君香と、そして運動不足の佳奈も一緒だ。


小屋は大昔、おそらく神社だったのだろう、、数十段の石で出来た階段をのぼり少し開けた場所に出ると、周りを高い杉の木に取り囲まれて(おごそ)かで、凛とした雰囲気を感じる。

開けた場所の奥に小さな小屋が見える、小屋と言っても普通の一軒家くらいのサイズはあった。

来海達が近づくと愬山、そして更にもう2人が小屋から出てきた。

「すみません、メグミをお願いします」そう言って来海は担いでいたメグミをそっとその2人に託した。

2人は全く同じ顔をしていた。中学生くらいの年齢で、双子の男子兄弟であった。

「わかりました」小気味よく返事をした双子はそっとメグミを両側から抱え、小屋の中の寝室へと運んだ。

「あの子たちは?」来海は汗を拭いながら愬山に尋ねた。

「潤くんも会った事があると思うんだ、ほら、粕谷さんとこの孫……」愬山は少し遅れてやって来た佳奈を気遣いながら来海にそう答えた。

「あぁー!僕が会った時は2人ともまだ赤ちゃんでした!」来海が膝を打ってそう答えると

「2人()()赤ちゃん……って、そりゃあ双子だからねぇ……」しごく当たり前な事を言う来海を愬山が笑った。

さっきの双子は”柿の葉茶ぐるぐる”の粕谷おばあちゃんの孫であった。

「愬山さん!お久しぶりです!」君香がつとめて明るくそう挨拶をした。愬山が一度東京渋谷の工房に遊びに来た時に君香(かのじょ)とは対面を果たしていた。

「おー、君香ちゃん。大変だったね!奥でゆっくり休んで!」愬山も明るくそう答えた。

君香と一緒に、ヘトヘトになっている佳奈も小屋の中へと入っていった。


杉の木立が月の光で逆光になって、黒くそびえ立つ。


「何があったんだ?メグミのあの怪我は……」

愬山の顔がさっきまでとは打って変わって険しい表情になっていた。

来海はパーキングエリアとファミレスでの出来事を詳細に語った。



夜の闇、その中を切るようにして

明神山のあちらこちらを数羽のカラスが飛び回っていた。

何かを探しているようで、しかしそれが見つからないという風な感じであった。


しばらく飛び回ったあと、カラスたちは1箇所に集まってきた。

森の中の一角、そこに1人の女性が立っておりカラス達はその女性の周りに降りてきた。

「見つからんか?、、やはり結界を敷いているのだろうな……」女性はカラスたちに向かって、そう言葉を発した。


当時(平成元年頃)の日本では、女性のファッションで『ワンレンボディコン』というものが流行(はや)っていた。ロングヘア(ワンレングス)と身体の形を意識したもの(ボディコンシャス)が混じりあって出来た、女性美を強く表したファッションであった。

開けた場所でカラスたちに囲まれているその女性も『ワンレンボディコン』と呼べる出で立ちをしていた。

肩甲骨まで伸びた赤紫色の長い髪。

身体のラインを強調するような臙脂色(えんじいろ)のスーツは腰の太いベルトでキュッと締め上げられている。

裾は膝上(ひざうえ)までしかなく、網目の大きなストッキングに包まれた長い足が更にスラッと見えた。

細い輪郭の顔の上に乗っている眼鏡は知的なイメージを醸し出している。

この女性こそ、夜巳幻子が送り込んだ秘書のマミヤであった。


カサカサ、近くの草むらが揺れたかと思うとイタチが飛び出してきてマミヤの足元まで走ってきた。

イタチの方を向いて聞き耳を立てると

「そうか!見つけたか!」マミヤはニヤリと笑いそう言った。

愬山の小屋は結界によって守られていたのだが、最初から結界の中にいる動物達にとってはなんの意味も持たなかった。小屋の床下で暮らしていたこのイタチはマミヤに操られて、来海達のいる場所を正確にマミヤ(かのじょ)に教えたのだ。

「ふふふ、よし!行くか!」マミヤは腰に付けたムチの様なものを右手で振り上げて声をあげた!


(いにしえ)より、日本では動物が神と崇められていた時代が長くあった。

先の世界大戦で日本各地が焼かれた時、動物の神もたくさん犠牲となった。

そして、その怒りは怨念となり禍々しい生き物の姿のまま、人間への憎悪を深めていった。

マミヤがムチを地面に叩きつけると、森の中から大きな獣がゆっくりと歩み出てきた。

全長20mを超す巨大な狐のような獣であった。ただし、大きさだけではなく狐と決定的に違うのは、頭が2つ付いていて、足が6本もあるということだ。

マミヤはムチを振りならし「厥狐(けっき)よ!そなたが持ちえた人間への怨みの念、今こそ晴らす時が来たのだ!」

目の前で唸りをあげる巨大狐の邪悪神”厥狐(けっき)”に対し焚きつける様に言葉を投げた!そして、”乱”の呪文を唱える。


「ぞんぎのねのみのおかたざまごうじのむめざらなりざらなり」


マミヤの口から出た言葉は赤紫色の玉となり空中に浮かぶと厥狐の身体に吸い込まれていった。

すると厥狐も赤紫に光り輝き、身体が更にひと回り大きくなっていった。

「ウゴオォォォ!」

身体を上に大きく反らして怒鳴をあげると

「人間ごときが、グルル、、この世界を()べるなどと、グガッ、、(たわ)けたことを、、」

厥狐は”人のことば”でそう言った。


***


愬山たちのいる小屋は3LDKの作りだった。

寝室ではメグミが身体を休め双子の男子がメグミ(かのじょ)の傷の手当をしていた。リビングでは来海、君香、佳奈がソファに腰掛け。愬山はキッチンでみんなの食事を用意していた。


「君ちゃんたちは何か嫌いな食べ物があるかい?」

愬山が包丁でキュウリを切りながら、君香と佳奈に尋ねた。

「いえ、特にありません」

2人はそう答えると「ほんとに、、なにかお手伝いしなくて大丈夫ですか?」とキッチンを覗き込む。

君香と佳奈は先ほどから何度か作業を手伝う事を申し入れているのだが、愬山は「おじさんは一人暮らしが長いからさ、料理だけは上手になったんだよ!」と言って(かたく)なに1人で調理を進めていった。

そんな愬山を見て

「ふふふ、みんなに美味しいものを振る舞いたいんだよ、きっと」

来海が君香達に笑いながらそう言った。


しばらくすると、確かに大御馳走(おおごちそう)がテーブルの上に並んだ。山の幸や海の幸、お肉や野菜、そして豪勢な事に伊勢海老まで並んでいた。

「うわぁー!すごーい、」君香と佳奈の驚く顔を見て愬山はへへんと指で鼻をこすり、まんざらでもない顔をした。

「さあさあ、食べて食べて!」

双子の男子たちもリビングに集いみんなで食にありついた。

メグミは寝室で眠っていたので後で運んであげることにした。


食事が終わり、テーブルの上には薬草茶が登場した。

みんながそれに口をつけ始めた時、愬山はテレビのスイッチを入れた。

どのチャンネルも高らかに事件を報じていた。

『立て続けに起こる事件!政府は戒厳令を検討中!』

『渋谷、日本平パーキングエリア、愛知県のファミレス、その関連性は!?』

『学校は休校、会社も長期の事業休止を余儀なくされ、旅客機の運休も続く、社会システムの崩壊』


愬山は敵に関する情報が得られないかとテレビをつけたものの、見ていられないという感じで電源を消した。


「潤くんは、確実に追跡されているね」

愬山が茶をすすりながら言った。


「はい、ファミレスを出る時に私やメグミ、君香たちも身体検査をしましたが追跡装置などは見つかりませんでした。もちろんタートルにも……」

来海は言い訳をするようにそう答える。

「まぁ、この辺り一帯は結界を張ってあるから、そうそう見つからないとは思うが……」

愬山がそう言うと、隣に座っていた佳奈が「苦いー」と声を漏らした。

「はっはっは、薬草茶は疲れを取ってくれるんだが、苦いのがなぁ……」愬山が自分の頭をぺちぺちと叩きながら笑った。


「全国から集まって来るんですか?」

来海が身体を乗り出して愬山に聞いた。

「うん、私の弟子たち全てに連絡をとってここに集まるように言ってある。明日の夜までには全員揃うだろう!」

愬山がまっすぐ見てそう言ったので、君香が「すごーい、ここに勢揃いするんですね!これで少し安心だー」といって安堵の顔をみせた。


「あなた達も”整”を使うんですか?」佳奈が双子の男子に尋ねた。


「この子らの”整”は凄いぞ!双子にしか出来ない技を使うんだ」愬山が横から口をはさむ。

「そんなそんな、、僕は兄の川江萼(かわえがく)と言います。はい、”整”は愬山先生に教えていただきました!」佳奈のすぐ隣にいた萼が恐縮そうにそう答えると、続いて「僕は弟の(らい)です!」とそのまた隣の蕾が答えた。さすがと言うべきか全く同じ動きで答えるところが双子だなぁと佳奈は思った。

リビングに笑いが広がった時、

床下や壁の裏、天井の上から何かが動く音が聞こえた、小さな昆虫やネズミが這い回る音だ。

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