無自覚な君が愛しくて困りもの(同棲百合)
「洗い物、終わったよ」
私がリビングに入ると、
「ありがとうございます」
清風がクリームを塗る手から顔を上げ、にっこりと微笑んだ。
「新しいハンドクリーム? いつもと匂いが違うな」
「はい、桜のハンドクリームですよ」
良い薫りでしょう? と差し出された手を、改めて嗅いでみる。甘やかさに一滴の爽やかさを含んだ、桜の葉っぱの香りがした。
「うん。いい匂い」
「あれ、充希。ささくれが出来てますよ」
「ああ、ほんとだ」
清風の指摘に、自分の手を見れば、確かに両手共にささくれがいくつか出来ている。
「もう。洗い物のとき、手袋してないでしょう?」
「……面倒くさくて」
「駄目ですよ。ささくれも、油断してると倦んだりする可能性があるんですからね」
清風はそう言いながら、自分の手で私の手を包み込んだ。
「ちょっと塗りすぎたと思ってたので、ちょうどいいです」
分けてあげましょう、と言い、そのままにぎにぎと握り込まれる。
優しく手の甲を撫でられ、掌をもみ込まれ、指の股と股が擦り合わされ……。
「清風」
「はい」
「……私以外に、こういうことは絶対しないように」
妙に官能的な雰囲気を感じ、ついそんなことを口走った。
無意識だったのか、清風はきょとんとした顔になったあと。
「ご安心を。自慢じゃないですが、私は友だちが少ないですからね!」
そう爽やかに言い切った。
「そういう問題じゃ……いや、まあ、うん」
あなた以外にはしませんよ、という甘い言葉を期待していた自分に気付き、私はもごもごと言葉を濁した。
END.




