ざわめきの理由を私は知らない(百合? 幼馴染同士。女子高生)
「お前、何で今日休んだ?」
自室のベッドでだらけきった幼馴染を見下ろし、私は腕を組んだ。
ギッと睨みつけてやっても、どこ吹く風。
そいつは馬鹿にしたように鼻で笑うと言った。
「お前、サボりに理由があると思ってんのか? 阿呆だろ」
「思うか! いや、理由のあるサボりもあるだろうが、お前に限ってそれは無い」
「わかってんのにわざわざ理由聞きに来たとか、やっぱ阿呆だな」
「阿呆って言うな! こちとら仕方なく来とんのじゃ!」
声を上げれば、あーうるせ、と耳をほじる。思わず、傍に置いてあったタオルでべしりと叩いてしまった。
「いってぇ、何しやがる」
「うるさい! 私だってサボり魔の面倒なんて見たくないんだ!」
「じゃ、見なきゃいいだろ。阿呆め」
「風紀委員だから仕方ないんだよ、あと阿呆って言うな」
隣に住んでいるから。風紀委員だから。この二つの理由で、私はこのサボり魔の面倒を見させられている。
「その風紀委員も、顔見知りに泣きつかれてやってんだから、しょうがねぇ話だよな」
「ううう、うるさい!」
ベッドに寝転んで漫画を読んでいる彼女の顔の横へ、敢えて座ってやる。
「ちょ、読みづれぇ」
「わざとやってるんだ、阿呆」
「阿呆って言った方が阿呆なんだが?」
「じゃあお前のが阿呆だろ、さっきから何回言ってんだ」
私はため息を吐くと、鞄から取り出したノートをぽいっと投げ渡す。
「とりあえず、今日の分のノート」
「おー。さんきゅ」
「……あまりサボってると、進級が本当に怪しくなるぞ」
「計算してるから大丈夫」
「計算間違いしてても、知らないからな」
「あー、確かに」
くつくつと笑う彼女に、私は再度ため息を吐いた。
勉強が出来ないわけでもない(むしろ頭は良い)、運動も得意、人付き合いも悪くない。
口は悪いが、性格も……まあ、悪くない方だと、思う。
しかし、何故か彼女はあまり学校に行きたがらない。
中学までは、普通に登校していたのに。
その理由を、彼女は語らない。
私にすら。
(……私にくらい教えろ、なんて言わないけど)
少し。ほんの少しだけ。寂しい……と思う。悔しいが。
「千廣」
彼女が私の名を呼んだ。
何、と振り返るより先に、彼女の手が私の襟足に触れる。
「髪、また伸ばせよ」
「……風紀委員やってる間は、無理だな」
前も言った、と言えば、ふんと鼻を鳴らされた。
「やめちまえ」
「そんな無責任なこと出来るか」
「こんなに綺麗な色してるのに」
さら、と触れて来る指の優しいこと。見上げる眼差しが思いのほか真剣で、心からそう思ってくれているとわかること。
それらに、私の胸は騒いでしまう。
近ごろ、ずっと。
「だからだよ」
誤魔化すように、彼女から視線を逸らした。
「風紀委員でこの髪色は、あまり良くない」
明るい髪色の風紀委員は、今のところ私以外見たことが無い。
「地毛なんだから、仕方ないだろ」
「うん。先生たちも、ちゃんとわかってくれてる。染めろと言われたこともない。……ただ、私の自己満足だよ」
先生たちの理解はあれど、注意される生徒側は嫌だろう。だから、せめて髪色がそこまで目立たぬよう短くした。
「馬鹿らしい」
「馬鹿って言うな」
「お前に言ったんじゃねぇ」
舌打ちしながら本気でそう言う彼女に、何故だろう、私の胸はやはりざわついて。
その理由は、未だわからない。
END.




