香りが私を(年の差百合。年上×年下。どちらも成人済。まだ同棲してない)
「またね、芽瑠ちゃん」
「はい! また」
駅で恋人と別れるとき。いつもキューと胸の奥が締め付けられる。
まだまだもっと一緒に居たい。そうやって、心が大騒ぎする。
もちろん、そんな我儘はぐっと堪える。
今日も、改札を通り一度振り返ったときには、きちんと笑顔を作った。
笑顔で手を振れば、桐子さんも笑顔で振り返してくれる。
いつもながら、綺麗な笑顔。見惚れてしまう。いけないいけない、電車が来る。
後ろ髪を引かれる思いで、前を向いた。
(桐子さんは、余裕そうだなぁ)
こんなデートの度に寂しくなってるなんて、私はまだまだお子様だ。
(恥ずかしい……)
こんな風に、凹みと寂しさとでしょんぼりしてしまう帰り道だけれど。
(今日はひと味違うんだから)
ホームに着く。電光掲示板によると、電車は出たばかりらしかった。人もまばらで、ちょうどいい。
私は、鞄から一枚のハンカチを取り出した。それだけでふわりと薫る、ジャスミンの香り。桐子さんの香水の匂い。お願いして、ワンプッシュだけ掛けてもらったのだ。
(これがあれば、まだ寂しくないはず)
そう思い、私は口元にハンカチを運んだ。
先程よりも強く、桐子さんの匂いがする。
『……芽瑠ちゃん』
途端、キスした記憶が色濃く脳裏に蘇る。
「!」
耳元で囁かれた声。柔らかな唇の感触。手のひらの温もり。私の頬を擽る桐子さんの髪……。
「……だめだ」
ハンカチを顔から離した。
けれど、彼女の香りは離れていかない。
私の鼻先に残って、何度も何度も触れ合った記憶をリフレインさせる。
「逆効果……」
もっともっと、会いたさが募ってしまって。
焦がれる気持ちが、胸を焼く。
END.




