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あなたに褒められたくて、なんて(百合。片思い。社会人)
「か~み~さ~わ~」
「わっ!?」
頬に冷たい感触が当たり、身体が跳ねた。驚いて顔を上げると、湊川先輩がこちらを見下ろしている。手には紅茶の缶。なるほど、それか。
差し入れ、と渡されたそれを、お礼を言い、ありがたく受け取った。
「もう定時過ぎてるよ~」
「え? ……本当だ」
見回せば、フロアには私と先輩しか居なかった。
「すみません、資料作ってたら夢中になっちゃいました」
「いつものだね。……まあ、だから上沢の資料は見やすいんだけどさ」
助かってるよ、と笑う先輩に、ドキッとする。細められた目に浮かぶ、優しげな色。ふわりと香るジャスミンの薫り。
「でもあんまり無理すんなよ?」
ぽん、と温かな手が私の肩を叩いた。
「後輩が元気な方が、先輩は嬉しいのだよ」
「……はい! ありがとうございます」
「よろしい」
いい子、と囁く声の柔らかさが、私の胸を更に高鳴らせる。
(こんな風に先輩に褒められたいから頑張ってます。なんて、言えないよね)
「さ、もう帰ろ」
「はい」
この気持ちを知られないように、私は明るい声を出した。
END.




