奇跡が起きなくても(歳の差百合。年上×年下。どちらも成人済。同棲中)
「ありがとうございましたー」
「ありがとうございます」
──買ってしまった。
憧れの、ちょっとお高めのケーキ屋さん。
せとかのタルトと、瀬戸内レモンの蜂蜜タルト。
どちらもオレンジとイエローが宝石の如くキラキラと輝き、タルト部分はこんがりきつね色で見るからに香ばしく美味しそうで。
(楽しみだ~~~)
今日は仕事でミスが発覚。幸い、すぐに気が付いたのでリカバリーは効いた。
が、当然のことながら叱られた。
それはもうネチネチと。あの取引先の人、正直苦手なんだよなあ。いや、ミスしたこちらが悪いのは重々承知しているのだが。
(と、イカンイカン)
このお高めケーキは、ややもすると今回のミスのあれそれを思い出し落ち込みそうになるのを防ぐために買ったのだから(期間限定スイーツショップのお高めわらび餅と迷ってこっちにした)。
(これを芽瑠ちゃんと二人で食べて、英気を養おう。うん)
そして、明日への活力とするのだ。
『わー! あそこのケーキですか? 嬉しい!』
喜ぶ芽瑠ちゃんの顔と、美味しいケーキを味わうため、私は歩くスピードを上げた。
帰宅後。
意気揚々とケーキの箱を見せると、芽瑠ちゃんは少し眉を下げ、何処か困った顔になる。
それから、おずおずと一つの箱を出して来た。
お高そうな黒い箱には、ちょっと見覚えがある。
「それは……」
「駅前の期間限定スイーツショップで売っていた、お高いわらび餅です……」
やっぱり──!
「今日は仕事でミスを連発したので、ちょっと活力が欲しくて買ってしまいました……」
「そっちもか~!」
「そっちも?」
芽瑠ちゃんが首を傾げた。
「いや、私も仕事でミスしてさ。凹んだ気持ちを、憧れのケーキで慰めようと」
私は、苦笑いのまま頭を掻く。
「そのわらび餅も、迷ったんだけどね」
私がそう言うと、ふふっ、と芽瑠ちゃんが微笑んだ。
「じゃあ私たち、おそろいの行動をとってたんですね」
目を細め、照れくさそうに、でも嬉しそうに。キラキラと輝いて見える笑顔。まるで、タルトに乗った果物みたいに甘やかだ。
「おそろい……」
「そうです、おそろいです。何か、ちょっと嬉しくなっちゃいました」
その笑顔と言葉に、ほわ、と心がほぐれた。
「……うん」
自分の口元が、ふにゃりと緩むのを感じる。
「そうだね、嬉しい」
「はい! ……そうだ」
ぱん、と芽瑠ちゃんが手を打った。
「今日は晩ご飯を軽めにして、どっちも食べちゃいませんか? 夜のお贅沢デザートってことで!」
ハッピーもきっと二倍です!
得意げな顔で、彼女が笑う。可愛い。お贅沢という最近二人でよく使う言葉も、今夜はより可笑しみと愛しさを感じた。
ふはっと笑いが零れる。
「いいね、二倍。お贅沢だ」
「はい、お贅沢です」
その日食べたお菓子は、和洋どちらも、ほっぺたが落ちそうなくらい美味しくて。
二人で「倖せだ」と頷き合って味わった。
END.
ひとつ前のお話の二人。タイミングが合わなくてもそれはそれで倖せ。




