表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/92

奇跡が起きなくても(歳の差百合。年上×年下。どちらも成人済。同棲中)

「ありがとうございましたー」

「ありがとうございます」

 ──買ってしまった。

 憧れの、ちょっとお高めのケーキ屋さん。

 せとかのタルトと、瀬戸内レモンの蜂蜜タルト。

 どちらもオレンジとイエローが宝石の如くキラキラと輝き、タルト部分はこんがりきつね色で見るからに香ばしく美味しそうで。

(楽しみだ~~~)

 今日は仕事でミスが発覚。幸い、すぐに気が付いたのでリカバリーは効いた。

 が、当然のことながら叱られた。

 それはもうネチネチと。あの取引先の人、正直苦手なんだよなあ。いや、ミスしたこちらが悪いのは重々承知しているのだが。

(と、イカンイカン)

 このお高めケーキは、ややもすると今回のミスのあれそれを思い出し落ち込みそうになるのを防ぐために買ったのだから(期間限定スイーツショップのお高めわらび餅と迷ってこっちにした)。

(これを芽瑠めるちゃんと二人で食べて、英気を養おう。うん)

 そして、明日への活力とするのだ。

『わー! あそこのケーキですか? 嬉しい!』

 喜ぶ芽瑠ちゃんの顔と、美味しいケーキを味わうため、私は歩くスピードを上げた。


 帰宅後。

 意気揚々とケーキの箱を見せると、芽瑠ちゃんは少し眉を下げ、何処か困った顔になる。

 それから、おずおずと一つの箱を出して来た。

 お高そうな黒い箱には、ちょっと見覚えがある。

「それは……」

「駅前の期間限定スイーツショップで売っていた、お高いわらび餅です……」

 やっぱり──!

「今日は仕事でミスを連発したので、ちょっと活力が欲しくて買ってしまいました……」

「そっちもか~!」

「そっちも?」

 芽瑠ちゃんが首を傾げた。

「いや、私も仕事でミスしてさ。凹んだ気持ちを、憧れのケーキで慰めようと」

 私は、苦笑いのまま頭を掻く。

「そのわらび餅も、迷ったんだけどね」

 私がそう言うと、ふふっ、と芽瑠ちゃんが微笑んだ。

「じゃあ私たち、おそろいの行動をとってたんですね」

 目を細め、照れくさそうに、でも嬉しそうに。キラキラと輝いて見える笑顔。まるで、タルトに乗った果物みたいに甘やかだ。

「おそろい……」

「そうです、おそろいです。何か、ちょっと嬉しくなっちゃいました」

 その笑顔と言葉に、ほわ、と心がほぐれた。

「……うん」

 自分の口元が、ふにゃりと緩むのを感じる。

「そうだね、嬉しい」

「はい! ……そうだ」

 ぱん、と芽瑠ちゃんが手を打った。

「今日は晩ご飯を軽めにして、どっちも食べちゃいませんか? 夜のお贅沢デザートってことで!」

 ハッピーもきっと二倍です!

 得意げな顔で、彼女が笑う。可愛い。お贅沢という最近二人でよく使う言葉も、今夜はより可笑しみと愛しさを感じた。

 ふはっと笑いが零れる。

「いいね、二倍。お贅沢だ」

「はい、お贅沢です」


 その日食べたお菓子は、和洋どちらも、ほっぺたが落ちそうなくらい美味しくて。

 二人で「倖せだ」と頷き合って味わった。


 END.



 ひとつ前のお話の二人。タイミングが合わなくてもそれはそれで倖せ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ