君が居ればそれでいい(百合? ロマンシス? 僕っ娘と座敷童)
実家の座敷童が、一人暮らしを始めた僕についてきた。
何を言ってるのかと思われそうだけど、事実なんだから仕方ない。
「ただいまー」
『!』
廊下にキッチン、トイレ洗面浴室に続くドアがあって、奥に寝室・リビング・ダイニングを兼ねた一部屋がある。そんな狭いワンルームマンションに、座敷童はついてきた。
僕が帰ると、嬉しそうに奥の部屋からぴょこぴょこと迎えにやって来る。
おかっぱ頭に、白い着物。小鳥みたいに真っ黒な眼(いつもにこにこ目を細めているので、普段はあまりそう見えない)。
背丈は、たぶん小学一年生の時の僕くらい。小さな、小さな女の子。
たったひとりの、僕の幼馴染。
「ごめん、今日は遅くなっちゃった。退屈だった?」
ううん、と彼女は首を振る。
そして、手にした色鉛筆を掲げた。
「絵、描いてたんだ」
『!』
彼女が、大きく首を縦に振る。手洗いうがいを済まして部屋へ入ると、
「……なるほど」
確かに、うん。楽しんだのがわかる。
画用紙に描かれたたくさんの絵が、そこいら中に散らばっていた。
「いっぱい描いたねぇ」
どうだ、というように胸を張る彼女の頭を撫でる。
どの絵も故郷の風景ばかりで……何となく、申し訳ない気持ちになる。
僕が自分で連れて来たわけじゃないけれど、友だちの僕がここへ来たから、一緒に来たのかも知れなくて。
「ごめんね。なかなか帰れなくて」
『?』
彼女は小首を傾げたあと、ううんと首を横へと振った。別に帰りたいわけじゃないよ、と言いたげに。
その証拠だと言わんばかりの勢いで、一枚の絵をこちらへ差し出す。
「これ、この間行ったお花見の?」
『!』
そう! と彼女が大きく頷いた。満面の笑顔に、彼女もここを楽しんでいるのがわかってホッとする。
「……ここも好きなら、いいんだ」
『♪』
にこにこと彼女が笑っている。彼女は、いつもご機嫌だ。
「さ。ご飯にしようか。今日はね、特別なデザートがあるよ」
『!』
「なんか、有名なお店のマカロンだって。じゃんけんで勝ち抜いて、貰えたんだよ」
『~♪』
座敷童の彼女が居る所為か否か。僕にはこういう小さなラッキーがたくさん起こる。
「じゃあ僕は着替えてご飯作るから、片付けてくれる? どっちが早く出来るか競争しよう」
『!』
だから彼女と居るのが心地好い、というわけではなかった。
ただ単に昔から、僕と居て心から楽しそうにしてくれるから。
家族にも級友にも馴染めなかった、こんな僕相手に。
それが嬉しくて、こうしてまだ彼女と一緒に過ごしている。
「勝った方が、デザートの飲み物を決めることにしよう」
『♪』
彼女が、この狭いワンルームに飽きるまで。
少しでも長く、一緒に居られたらいいなと願う。
「……そういえば、最近は白い着物ばっかりだね? 実家に居た頃は、赤だったのに」
『!』
唇に人差し指を添え、にこにこ微笑む彼女を見ながら。
僕もご機嫌に夕飯の支度を始めた。
END.




