お嬢さん、お手をどうぞ?(百合。真面目×自由人。馨×ミイ)
普段は関係者しか入れないレトロな洋館。そこが一般開放されると聞き、私と馨くんは、嬉々としてやって来た。
重厚な石造りの階段や、むく板が張り巡らされた贅沢な貴賓室、アーチを描いた出入り口や窓枠など、ルネッサンス調の美をこれでもかと見て、二人とも満足する。
すべて見終わり、休憩がてら私は中二階のデッキから、下のロビーをぼんやりと眺めていた。
「お嬢さん」
そんな私の後ろから、声がかかった。
そちらを振り向けば、
「お暇でしたら、私と一曲ダンスを踊って頂けませんか?」
片目を瞑りながら胸に手を当てた、長身のすらりとした女性……私の恋人が、立っていた。
シャンデリアの灯りをバックに、非常に様になっている。
「……馨くん、似合うねぇ。そういう科白」
「ミイさんも。物憂げな横顔が、退屈したご令嬢そのものでしたよ」
おかえりと言えば、ただいまと返って来た。馨くんはトイレに行っていて、私はそれをここで待っていたのだ。
「私が退屈している令嬢だったら、馨くんは外へ連れ出してくれるの?」
「もちろん」
馨くんが、私の手を取った。
「そしてそのまま、帰さず攫ってしまうかも」
それから手の甲にキスをする……振りをする。
甲を掠めた息に、物足りなさを感じた。
今、デッキには私たちしか居ない。けれど、階下のロビーや他の場所にはたくさんの人が居る。そのざわめきが、本当に舞踏会だとかパーティーだとかのそれを想像させて。
私は、口角をキュッと上げた。
「いいね」
するりと彼女の手から離れて、歩き出す。
階段の……ざわめきの方へ。
「私を攫ってよ、馨くん。何処か楽しいところまで」
そう言って振り返り、不敵に笑ってみせた。
ごっこ遊びだけでなく、本当にわくわくするところへ連れてってとおねだりするように。
「仰せのままに」
馨くんもまた、不敵に笑うとこちらへ手を伸ばした。
「お手をどうぞ、お嬢さん。いいところへお連れしましょう」
先ほど逃げ出したその手に、今度は自分から手を乗せる。
「ふふふっ。とっても楽しみ」
にっこり笑うと、同じように満面の笑みを返され、ギュッと手を握り返された。
では、参りましょうと馨くんが先導する。
「……とりあえず、まずは中華街に行きましょうか。腹ごしらえをします」
「やった。小籠包と桃まん食べたい」
そうして提案されたとても現実的な『楽しみ』に、私は退屈を覚えることなく、うきうきと乗っかったのだった。
END.




