こっちを見て、触れて(鈴蘭。男の娘同士。やきもち)
待ち合わせ場所の喫茶店。
角の席で。
「いいねいいね~」
待ち合わせ人が、ごきげんな声でスマホを見ながらそんなひとりごとをかましていた。
まあ、すみっこの席で、周りに人は居ないし、いいんだけど。
「この世の春が来てんね~」
僕が目の前に座っても、彼の人はスマホに夢中だ。
「僕は、この世の冬って感じだけど」
待ち人が来たって言うのに、まったく気が付かないなんて。
流石にムッとして、不機嫌な声が出た。
「あ、来てたんだ。おはよう」
「おはよう! じゃ、ないよ!」
今さら僕に気が付いた薄情な恋人の本日のコーデは、白いベレー帽に、シックな白のワンピース。差し色として、リボンやスカートの切り替え部分が、深い藍色になっている。良い。
怒りが半減するくらいには似合っているし、可愛い。
じゃない。
ちゃんと言わないと。
「せっかくのデートなのに、僕が来たことにも気が付かないとか。つれなくない?」
「ごめんごめん」
ちなみに今日の僕のコーデは、焦げ茶色のベレー帽に、裾と袖にフリルの付いたライダースっぽいアウター、ダークブラウンのバッスルスカートだ。
お気に入りブランドの新作で揃えた、気合の入ったデート服だっていうのに。
それにすら気付かないのは、本当に良くない。
「今ハマってるジャンルが、ちょっと熱くてね……」
彼はスマホを置くと、こちらを見てにっこりと微笑んだ。
「神字書きさんは居るし、その字書きさんのお話を漫画にしたりイラストにしたりしてくれる神絵師さんたちも居るしで、最高」
「ふぅん……?」
綺麗な笑みを向けられたって、落ちないんだから。
僕ががんばってむくれていると、すいっと彼が近付いて来て。
「……そんな風に、みぃちゃんが妬いてくれるのも、最高」
耳元で、そっと囁く。
「……もう」
まったく。ずるい男の娘だ。
「透流くんの悪い癖♡」
つん、とおでこをつついてやると、
「えへへ、ごめんね」
と言って、透流くんは笑った。それから。
「今日の格好、とっても可愛い♡」
もう一度僕の耳元でそう囁くと、椅子に戻った。
顔が熱くなる。
「ね、何処行こっか?」
涼しい顔で、本当にずるいひと。
「今日は、透流くんのお洋服を選びたいな」
悔しいから、僕色に染めたい。
「ほんと? 嬉しい!」
そんな僕の思惑を知ってか知らずか。
透流くんが、無邪気に笑った。
END.




