倖せな食卓を、あなたと(歳の差薔薇。年上×年下。菓子職人×元塾講師。トーリー×颯太)
味噌を溶き終えて、ひと息吐く。
脇に置いた味噌椀を手に取り、そこへ味見分だけ汁を注いだ(味見用の小皿を出すべきなのだろうけど、洗い物の手間を省くため、いつも味噌椀で味見をしてしまう)。
それを啜って、
「!」
目を見開いた。
美味しい!
複数の出汁が織り成す豊かな風味と、味噌の深み。具材の旨味がギュッと詰まっており、これは傑作だ。
「颯太さん、颯太さん!」
思わず、恋人の名前を呼んだ。
「今日のおみそしる、すごいです。とてもうまくできました!」
「そんなに?」
テーブルを拭いていた颯太さんが顔を上げ、こちらへやって来る。
「味見していいですか?」
「もちろんもちろん、して下さい!」
私はお椀に新たなお味噌汁を注ぎ、
「どうぞ」
彼に恭しく手渡した。
「頂きます」
彼もまた、同じように丁寧にそれを受け取ってくれる。そして、何処か厳かな仕草で口を付けた。
「! おいしい……」
彼の目もくるりと丸く見開かれる。ほうっと吐息と共に賛辞が零れ、私の胸は嬉しさに飛び跳ねた。
「でしょうっ?」
「いつも美味しいけど、今日のは特別美味しいです」
「しいたけのおだしを、少し加えたのがよかったのかもしれません」
「里芋とさつま揚げの風味も、いいアクセントになってるかも」
お鍋を見ながら、颯太さんがしみじみと呟いた。その真剣な眼差しに、私は嬉しさが胸から全身へじわじわと広がっていくのを感じた。
「……ふふふっ」
「どうしました?」
「いえ。おいしいものが作れたとき、こうしてだれかに食べてもらえるのは、とても倖せだとあらためて思ったのです」
一緒に暮らしていた祖父母を亡くしたとき。一度は失われた瞬間だ。
それをまた、こうして手に出来た。
その奇跡にハッと気が付くたび、私は何度も感動する。
「ありがとうございます、颯太さん」
お椀を持つ彼の手を包み、改めてお礼を言った。
何度言っても、言い足りないくらい、この瞬間は幸福そのものだ。
「……普通、お礼を言うのはこっちだと思うんだけど」
颯太さんは、照れたように小首を傾げてそう言った。
「冷めないうちに、早く食べましょう」
「はい!」
二人で残りの準備を終え、食卓を囲む。
温かい湯気越しに彼を見れば、笑顔が返る。
「「いただきます」」
手を合わせ、今度は二人同時にお味噌汁を啜って、また「美味しい」と笑い合った。
自分の作ったものを美味しいと言ってあなたが食べてくれる。
なんて倖せな毎日だろう!
私は、お味噌汁の具材と一緒にその倖せをしっかり噛み締めた。
END.




