これはきっと君のお蔭(百合。真面目×自由人。馨×ミイ。馨出番無し)
バックヤードに下がって、ひと息吐く。
さあ、お昼休憩だ。
いそいそとデスクに戻り、バッグから巾着袋を出す。そしてそこから、ラップに包んだおにぎりを二つ取り出した。
今日のお弁当は、この大きめおにぎりだ。具はそれぞれ、梅おかかと鶏そぼろ。
まず梅おかかを手に取り、ラップを剥く。おかかの香ばしい匂いと、梅の甘酸っぱい匂いが鼻先を擽る。
「いただきます」
ぱくっ、と大きくひと口頬張った。
……美味しい。
我ながら、会心の出来だ。
ごはんの塩加減と言い、おかかと梅の混じり具合と言い、すべてが完璧だった。
(美味しく出来たな……嬉しい)
もぐもぐと噛み締めれば噛み締めるほど、旨味が出て来る気がする。
テンションが静かに上がる。
(馨くんもきっと)
同じおにぎりを、馨くんにも作って渡したので、彼女もこれを味わったはずだ。
彼女の昼休憩の姿をふと想像してみた。
『頂きます!』
恐らく馨くんは元気にそう言って、おにぎりにかぶりついただろう。
そして、
『美味しい、美味しいです、ミイさん!』
目を輝かせて、そこに居ない私に対して賛辞を投げかけてくれたはず。
うん。きっとそうだ。
「……ふふっ」
想像の中の馨くんが可愛くて、思わず笑いが零れた。一人だしいいかと思ったのだけれど、
「うわ、何ひとりで笑ってるんですか」
ちょうどバックヤードに何か取りに来たらしい後輩に見られてしまった。
「ごめん、おにぎりが美味しくて」
後輩は、呆れたような表情でこちらへやって来る。
「そんなに美味しく出来たんですか?」
「うん。だから、きっと恋人も美味しい美味しいって食べただろうなあと思ったら、こう、楽しくて」
私の答えに、彼女は何とも言えない……感心とも驚きとも取れるような……表情を浮かべ、呟いた。
「……すごい信頼ですね」
「そうかな?」
「そうですよ」
後輩が、頷く。
「自分の行動で相手が絶対喜ぶって思えるの、何気にすごいことですよ!」
「……言われたら、そうかも」
「ね!」
あまりに力強く言われ、小首を傾げた。
……だとしたら。
このすごいことは多分、
『美味しいです、ミイさん!』
毎回ちゃんと感想を言ってくれる、馨くんのお蔭だ。
「……ふふっ」
「また笑った!」
怖い! と後輩が小さく叫ぶ。……失礼な。
「いや、良い恋人を持ったなって思って」
「何ですか、惚気ですか」
「そうかも」
「も~。惚気るなら、さっさとご飯食べて仕事戻って下さい〜」
「やだよ~、味わって食べます~」
そんな風にじゃれていると、後輩がオーナーに呼ばれた。彼女は、慌てて棚のファイルを一つ手に取ると、表へと戻った。
また一人になり、私はもう一度しみじみとおにぎりを味わう。
(今日帰ったら、感想を聞こう)
そう決めて、またひと口。美味しい。
(それで、お礼と一緒に思いきり抱き着こう)
想像の中で馨くんは、『え、え、いきなりどうしたんですか、ミイさん。嬉しいですけど!』と戸惑いつつも私を抱き締め返してくれていた。
きっと数時間後、それは現実になる。
私はそんな楽しい予想に浸りながら、今日のお昼ご飯を終えたのだった。
END.




