そのひと手間は手間ではなくて(歳の差夫婦。年上×年下)
晩ごはんのあと。ソファーで、私の入れたココアを飲んでいるとき。
「……おひいさんの入れるココアって、癖になる感じがする」
ぽつりと、嘉助さんがそう言った。
もちろん良い意味でだよ、と付け加えて。
「ふふ、そうですか?」
「何か入れてる?」
私の口角が、得意げに少し上がる。
「実は、ほんのちょっとだけお塩を入れてます」
祖母直伝の隠し味。お気に入りのひと手間。
「なるほどね。だから、コクがあって、ついつい飲み進めちゃうんだ」
「お塩は甘いものを引き立たせますから。お汁粉にも入れてますよ」
「確かにおひいさんのお汁粉も、美味しいものねぇ」
彼はしみじみそう言うと、ぽふ、と私の頭に優しく手を載せた。温かくて大きな手のひらが、私の頭を柔らかく撫でてくれる。
「いつもひと手間、本当にありがとうね」
微笑みながら言われたひと言に、胸がキュッとときめいた。
……それを言うなら、あなただって。
私の脳裏に浮かぶもの。
例えば、あなたの作るカレー。元々えのきは入ってなかったのに、いつからか私の好きなそれを必ず入れてくれるようになったこと。あなたがお味噌汁を作るとき。お素麺やとき卵を入れてくれること。
元はそうじゃなかったのに。無くてもいいものなのに。必ず私の好物を入れてくれる。
……そんな風に、たくさん、たくさん、『ひと手間』をかけてくれているの、私は知ってます。
彼を見上げて、にっこり微笑む。
「おひいさん?」
「美味しかったなら、とても嬉しいです」
「うん。美味しい」
彼の肩に頭を載せた。ココアの甘い香りが、私の鼻腔を倖せに擽った。
END.




