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百花繚乱~一日一作短編集~  作者: 飛鳥井 作太


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これがあの衝動かと(百合。真顔系クール女子×ダイナマイトマッスルボディ高身長女子)

 こちら(https://ncode.syosetu.com/n1682mt/)の二人です。

 夜だがまだ全然遅くない時間に、私はらしくもなくベッドに沈んでいた。

 熱は無いが、腹は痛い。身体は重い。薬を飲んでマシになってはいるものの、それでも身体はだるかった。

 コンコン

「大社《おおこそ》~? 入るよ~?」

 軽快なノック音と共に、恋人の声がする。

「……うぃー」

 それに返す自分の声も、何処か重かった。

 ドアが開いて、

「調子どう?」

 マグカップを持った伽羅《きゃら》が部屋に入って来る。

 その心配そうな顔に、申し訳ないやらほんの少し嬉しいやら、複雑な感情を抱く。

「ちょっと痛みマシになった……」

「生姜湯持って来たけど、飲める?」

「飲む……」

 のそのそと起き上がった私に、彼女がマグカップを差し出した。

「でも、久々だね。生理でダウンするの」

「ホントだよ」

 受け取ったマグからほこほこと湯気が上がり、生姜湯特有の甘やかでスパイシーな香りが立ち上る。

「せっかく気候が良くなって調子出そうってときに、何だってこんなやべぇのが来るんだよ」

 己が獣なら、唸りたい気持ちでいっぱいだ。

「逆に考えれば、あっつい時にダウンしなくて良かったけどね」

 ダブルパンチに比べればマシじゃない? と伽羅が言った。私の中の獣を、少し落ち着かせるように。

「まあ、それもそうか」

 私は肩を竦めると、気を落ち着かせるべく、生姜湯を飲んだ。

 はちみつの甘さと生姜のピリリとした刺激が、口の中に広がる。咽喉を通り過ぎると、それは温かさとなって腹の中へと落ちて行く。

 美味い、と思わず呟けば、良かった、と伽羅が微笑んだ。

 ふんわりと柔らかな笑みだ。

「明日も、リモートワークに出来そ?」

「うん、何とか。それは助かったわ」

「良かったねぇ」

 その微笑のまま、彼女の手が優しく私の頭を撫でる。

 ……何だろう。腹の底から湧いて来る、この熱いような気持ち。

「何か、他にして欲しいことはある?」

 ん? と首を傾げる伽羅に、胸いっぱい広がったそれの名前を思い出した。

 これ、あれだ。

 バブみを感じてオギャるってやつだ。そういうアレだ。

 ママ~! と言って、その胸に飛び込んでしまいたい。

 すごい。ママなんて、実際のオカンにすら使ったことないわ。己が怖い。

 その衝動をグッと堪えて、生姜湯を飲み干すと。

「……おっぱい触りたい」

 私は、衝動をもう少し別のものに置き換えて言った。

 こっちがマシだとはもちろん思えないが、しかし、何もかもを放り出して甘えたくなる衝動に抗えるのは、これくらいしか無かった。

 本当に、今の自分はダメダメだった。

「元気そうじゃん」

「ちがう、逆に元気が出そうだから」

 私の言葉に、伽羅が半眼になる。

 うん。わかる。わかるので何も言えない。

「……」

 彼女は空になったマグを私の手から取って、無言で立ち上がった。

 あまりのデリカシーの無さに、怒ってしまったか。

 体調不良、まったくすべてにおいて良くなさ過ぎる。

 私が猛省を始めたとき。

「……あとで、ね」

 伽羅が、小さくそう言った。

「!」

 ちらっとこちらを見た彼女の頬は朱く。

 そそくさと部屋を出る後ろ姿は、何とも可愛らしかった。

 私は、そのままベッドに倒れ込んだ。

「……悪いけど、悪くないかも」

 いや、そりゃ元気なときにあれやこれやしたいし、先程の発言への猛省はしてしかるべきだし、ちゃんと猛省するけれども。

 しかしそれでも、甘やかされるのも悪くない、ともほんの少しだけ思ってしまった。


 END.




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