正反対が重なる道行き(百合。女子高生)
下を向いて歩くのが癖だ。
あまり人の顔を見たくないし(そもそも人の顔を覚えるのも苦手なのだ)、変なもの(ガムとか)を踏みたくないから。
ほら、今まさにガムを避けた。
通学路は、人も居て、ゴミもあって、落ち着かない。
朝の清々しい空気の中、私は今日も、下を向いて歩いている。
あ、ちょっと大きめの石ころ。すっと避けて、ひと安心。
やっぱり、下を向いて歩いた方が良い。
親や周りからは『前を向け』と、口うるさく言われてしまうけど。
脳裏に過ぎる彼ら彼女らの、怒った顔や呆れた顔。思い出すだけで、心がヒュッと少し竦む。
……でも。
「あ」
道端の花に、気が付いた。
オレンジの花。昨日まで、蕾だった花。
「可愛い」
しゃがんで、スマホを構える。写真を撮って、確認。よく撮れてる。口角が自然と上がった。
……こうやって良いものを見付けることも多いから、やめられない。
それに。
「史織!」
その声に、パッと顔を上げた。
こちらに向かって手を振っている、ベリーショートの女の子。同じ学校の制服。
空知奈七ちゃん。
自分の笑みが、もっと深くなるのを自覚した。
「ななちゃん!」
立ち上がった私の元に、ななちゃんが駆けて来た。
「おはよう」
「おはよう。何見てたの?」
「これ」
私が、足元の花を指差せば、
「あ!」
彼女は目を見開き、にっこり笑った。
「可愛い!」
「でしょう?」
ななちゃんも、しゃがんでスマホを取り出し写真を撮る。
いいねぇ、可愛いねぇ、と花に話しかける彼女が愛おしくて、胸がきゅんとなった。
写真を撮り終えたななちゃんが、すっくと立ち上がる。
「相変わらず、『良いもの』を見付けるのが上手いね、史織は」
私の頭を撫でる彼女の眼差しが優しくて、私は照れ臭くなった。目を伏せ、
「ななちゃんが、こうして褒めてくれるから」
そう言った。頬が熱い。
でもやっぱりななちゃんの顔が見たくて、そっと視線を戻した。
すると、何故か彼女も頬を染めていて。
目が合うと、ななちゃんは照れ臭そうに空を見上げた。
「もー、嬉しいこと言ってくれるね……あ!」
そして、声を上げた。
「?」
「見て!」
彼女が指差した先を振り仰ぐ。
そこには、空にくっきりと線を引いた飛行機雲。
「すっごく綺麗に見える!」
「本当だ」
見事なまでの、青と白のコントラスト。
「ななちゃんも『良いもの』を見付けるの上手いよね」
「そりゃ」
私の手を、ななちゃんが握った。温かくて柔らかな、優しい手。
「史織がそうして褒めてくれるから」
私たちは顔を見合わせ、ふふふと笑った。
「まー大人たちには、ぼーっと上ばっかり見てって言われちゃうけどね」
「……でも、だからこそ良いんでしょ?」
『私たち、見ているところが正反対だから、教え合えるね!』
いつか彼女が言ってくれたこと。
私は、今も心のいちばん大事な場所に置いている。
「もちろん!」
ななちゃんが、ニッと笑う。その真っ直ぐな笑顔に、また胸がときめいた。
「今日も何か、面白いことがあるといいね」
「そうだね」
手を繋いだまま、歩き出す。
話す声が弾んで、胸は相変わらず高鳴ったまま。
今日も、二人で歩く道がこんなにも嬉しい。
END.




