あなたが居るから(ロマンシス。小料理屋の店主と店員)
開店準備が整った。
カウンターは綺麗に磨かれているし、お皿もばっちり。
お酒も冷えているし、お通しの用意も出来た。
さて開店時間までの息抜きに、と店用の最新雑誌を何気なく開いたら。
「見て! 雑誌、載ってるよ!」
「あ、この間の取材の」
そうだった。
これは買ったものでは無くて、献本だった。
「『店主が深く料理を愛していることが伝わって来る。その愛に、客は惹き込まれる。だからこそ、店は静かに繁盛しているのだ』……この記者、わかってるね!」
「照れるね」
料理の写真も綺麗に撮れている。
うんうん、いいじゃない。
「アンタの料理への愛が、人々を魅了してることにちゃーんと気が付いてるのはえらいわ」
昔から、この子の料理への愛はすごかった。
研究熱心で、こちらがどんなに「美味しい」と言っても、自分が納得しなかったら、何度でも同じものを作り直した。
「私もその勢いに魅せられてここにいるわけだし」
私は、そんな彼女の探求心に惚れた。
もちろん、彼女の料理の美味しさに惹かれたのもある。けど、決め手はその姿勢だ。
一番近くでそれを見たい、手伝いたい、と強く思った。
「……どっちかといえば、亮ちゃんの接客のお蔭だと思うんだけど」
彼女が、真っ直ぐに私を見て言う。
その眼に、嘘は無い。
私は、ふふふ、と思わず笑いを零した。
「ありがと。でも、その私を惹き込んだのはアンタの愛と腕なんだから、やっぱりアンタのお蔭なのよ」
謙遜は要らないの、と言っておでこを軽くつつく。
「……うん」
すると、何故か彼女はちょっと嬉しそうにはにかんだ。
「さあ、今日も張り切ってやってこ!」
「うん。今日も、よろしくね」
今夜も私たちのお店は、花開くように甘く開店する。
END.




