甘い真綿の枷になる(百合。執着心強め後輩×大らか先輩。日千シリーズ。第三者視点)
部室に入ると、そこには後輩が一人だけ居た。
本棚の前で胡坐をかき(我が部室は畳敷きの和室だ)、熱心に本を読んでいる。
そのタイトルを見て、私は「お」と目を瞠った。
先日、私が買って来たレシピ本だ。
自分の選んだ本が読まれていると、やはり嬉しいものだ。
「日代。早速、そのレシピ本見てくれてんの?」
つい、うきうきした声でそう話しかけてしまった。
「かぼちゃのお菓子が、たくさん載ってるので」
対する後輩・日代は、淡々と答える。
こいつがクールな対応をするのは、人類全員(一人例外在り)に対してなので、特に気にしない。
「秋のお菓子特集だもんな。かぼちゃ、好きなんか?」
「そうですね。千ちゃん先輩が、かぼちゃ好きですね」
日代の口から出て来た人物こそ、彼女が唯一熱視線を向ける相手であり、その子もまた私の大事な後輩の一人である(ちなみに日代が『先輩』と呼んだように、彼女にとっては一つ上の先輩になる)。
「……お前さんじゃなくて?」
「色んなコンビニとかカフェとかで、季節限定のが出るってはしゃいでたから」
確かに、この間そんなことを話していた。
友人たちと楽しそうに盛り上がっていて「ああ、後輩たちがキャッキャしてるところを見る喜びよ」と同輩らと共にほっこりしたことは記憶に新しい。
「これは、自分が作れるようになった方が早いと思ったんですよ」
日代が、顔を上げた。無表情だが、その目は爛々と輝いている。狩人の目だ。
身体が勝手に半歩下がった。怖い。
「……。一緒にコンビニ巡りとかカフェ巡りとかすれば良くね?」
「それは当然のことで」
「あ、当然でしたか」
思わず敬語になってしまう。
「行けないところのお菓子を自分が再現出来たら、千ちゃん先輩はこっちをもっと頼る。来年は、こっちだけに期待するかも知れない。それが一番良い」
「なるほどー……」
そっかーそれが一番かー、そっかー。
呟きつつ、身体はまた半歩下がっていた。
可笑しいな。
私の予想だと、このレシピ本は「わー美味しそう~」「食べたーい」「これ、うちのキャラに作らせよっかなー」「それ良いじゃーん」みたいなほのぼのした話題を提供するものだったはずだ。
それがまさか、愛する相手を囲う何かに使われようとは。
思いもせなんだ。
「まあ、ほどほどにな?」
私の言葉に、彼女は黙ってニヤリと笑った。いや、何か言って。
聞くんじゃなかったなあ、と遠い目になった私の耳に、元気な「お疲れ様でーす」の合唱が響いた。
END.
こちら(https://ncode.syosetu.com/n9047lt/34/)のお話の子たち。部長(高二)とひーくん(中一)。中高一貫校です。




