ね、僕だけだよ。なんて(百合。僕っ娘先輩×私っ娘後輩。有田×白山。高校時代。付き合う前)
文芸部寮一階、部室。放課後になると、部員たちがたむろする。二十畳ばかりの広い和室だ。
と言っても、ミーティングや印刷日、製本日以外は、みんなで何かすることは特に無いので、たいていの部員はここでお喋りを楽しんでいた。あるいは、漫画や小説を読んでいるか。
この部屋で原稿をやっている部員は稀で、ここで息抜きをしてから自室に戻り原稿をすることが多い(という体でやはり自室でも漫画を読んだりゲームをしたり動画を見たりしているわけだが)。
かく言う僕も、部室図書にある漫画を読み、英気を養っている最中だった。
と。
「おつかれさまでーす……」
覇気のない声と共に、部室の襖が開かれた。
ふらふらと入って来たのは、一つ下の白山だ。
「「「お疲れ様~」」」
部員たちの挨拶が響く中、よたよたとこちらへやって来る。
「どした、ハク。めっちゃふらふらじゃん」
読んでいた漫画を脇に置き、声をかけた。彼女とは、最近よく話すようになった。
「今日眠りが浅くて……何度も起きちゃったんですよね」
僕の隣に腰かけた白山は、確かに何度もしぱしぱと瞬きをくり返し、眠そうな様子だ。
「あー、寝れてないんか」
「そうなんですよ」
ぐったりとした彼女が少し可哀想で。
「あ、じゃあ僕の膝使って、ちょっと寝る?」
僕はふと思い付いたことを、冗談めかして口にした。
何言ってるんですか? と冷ややかなツッコミが来るかと思えば、
「…………」
沈黙が返って来た。
あらこれ、やばかったかしら。セクハラだったかも。
ひやりとした汗が背を流れる。
しかし白山は、疲れた顔で僕を見つめると。
「じゃあしばらくおねがいします」
そう言って、素直にぱたっと僕の膝に頭を預けた。
しばらくして、本当にすーすーという寝息が聞こえ始める。
僕は目を丸くした。顔を上げる。他の部員さんたちも、驚いた顔でこちらを見ている。
わかる。わかるよ。
別にクールキャラってわけじゃないけど(話しかければ普通に応えるし、冗談も言う)、それでもこういう触れ合いはやって来なかった子だもんね。吃驚だ。
提案した僕も、驚いている。
「有田、ほんと懐かせたねぇ」
部長が、ニヤッと口角を上げて言った。
「いやあ」
僕は何と応えたら良いものか迷いつつ、脇に置いた漫画を再び手に取る。
「嬉しいもんですね」
と無難な答えを返した僕の頭に、一瞬過ぎったことは。
(このまま、僕だけに懐いててくれないかな)
なんていうことだったのは、流石に誰にも言えないと思った。
END.




