あなたを元気づける魔法は(歳の差夫婦。年上×年下)
土曜日。朝。
俺は仕事が休みだけれど、おひいさんは午前中だけ仕事がある。
彼女は今、靴を履く前に鞄の中身を確認している。そんな彼女を、俺は壁にもたれながら眺めていた。
起きられる限りは、こうしてお見送りをする。
持ち物確認を終え、彼女が鞄を閉めた。忘れ物は無かったらしい。良かった。
「気を付けてね」
いつも通り言えば、
「あの」
今日は「行ってきます」では無い言葉が続いた。
「?」
首を傾げつつ、彼女の言葉を待つ。
「今日、ちょっとお仕事大変そうで。だから……」
そこまで言うとおひいさんは、こちらへくるっと振り向いた。その表情は照れを含みつつも、何処か気合の入ったものだった。
「ハグ、してくれませんか?」
頬を染めながら腕を広げる彼女に、俺は思わず微笑む。
壁から身を起こし、
「喜んで」
ギュッと強く、彼女を抱き締めた。
そのとき、彼女が忍ばせている匂い袋の薫りが鼻先を擽る。鞄の中に入れているのだろうそれは、彼女がここ一番のがんばり時に持ち出す沈香の薫りだった。近付かなければわからないくらいの、小さな薫り。
えらいなあ、がんばってるんだなあと感心する気持ちと共に、気分を鼓舞するために相変わらず自分との抱擁を求めてくれることへの嬉しさが混じった。
可愛い可愛い、俺の奥さん。
「がんばって。でも、無理はしないでね」
「はい……!」
弾んだ声で、彼女が返事をした。
「じゃあ、行ってきます!」
朗らかな笑みを浮かべ、おひいさんが家を出る。
「うん。いってらっしゃい」
彼女の足音が遠ざかるのを聞きつつ玄関の鍵をかけ、俺は午後までの段取りを考え始めた。
(今日のお昼は、チキンカツサンドを作ろう)
彼女が最近好きだと言っていたもので、ご褒美ランチだ。
まずは、おひいさんのお気に入りのお店へ、チキンカツを買いに行く。
ただのサンドじゃなくて、ホットサンドにしよう。
スープも、取っておきの缶を開けてしまおう。
(疲れたあの子を労うのは、俺の特権だから)
脳裏に浮かんだ彼女の笑顔に。
俺まで自然と笑顔になった。
END.




