シガーキスと沈黙、曇り空(同棲百合。恋人とその姪っ子と三人暮らし。今回、姪っ子は登場せず)
夜。久しぶりに煙草が吸いたくなり、物干し台に出た。
捨てる予定だった雑誌を数冊持って来たので、遠慮なくそれらを尻の下に敷いて座る。
空を見上げながら、煙草に火を点けた。
雲が広がる空に、星は見当たらない。
久々に引っ張り出してきた煙草だから湿気てるかと思ったけど、意外とすぐに火は点いた。
ふー……と煙を吐き出す。
……頭の中のもやもやを、形にして出すみたいに。
しかし、そんなイメージを浮かべても、もやもやは減らない。
湿度の高い周りの空気と同じ、じっとりとした重さでこの身の内に居座っていた。
……ま、そんなもんだよね。
半ば気分転換をあきらめかけたときだ。
がら、という音が後ろからした。
振り返ると、そこには櫻子が居る。
「どうしたの、さーたん」
「そっちこそ。珍しいな、それ」
彼女は、つっかけを履きつつ私の煙草を指差した。
「ここしばらくは、吸ってなかったろ」
「ああうん。基本は止めてるから。……今日は何となく、吸いたくなって」
「そうか」
「うん」
座る? と言って、お尻の下から一冊雑誌を取り出した。
櫻子はそれを「さんきゅ」と受け取ると、同じように尻の下に敷き隣に座る。
ちょっと距離を詰めて、ぴったりとくっついてみた。
彼女は微かに笑うだけで、何も言わず、もちろん距離も取らなかった。
「……一本くれ」
「いいよ」
櫻子が吸うのもまた珍しい。彼女も、煙草を止めて久しいから。
でも、わかるよ。
何かこういう日って、あるよね。
「火は?」
煙草だけ差し出した私に、櫻子が問う。
私はニヤッと口角を上げ、
「ん」
と自分の煙草を指差した。
意図を察したらしい彼女はため息を吐くも、同じように咥えて、そのままシガーキスをしてくれた。
お互いに息を吸い、火を灯す。
それからは、黙ったまま。
「……」
「……」
二人で、空を見上げていた。
まあ屋根があるから、狭い範囲の空だけど。
紫煙が揺れる。
二人分。
それだけで、先程よりもぐっとマシな気持ちになって来た。
何も喋っていない。
お互い、何故この空間に来たかったのかも知らないまま。
ただ、隣に居る。
それだけで良い、と思えることが、どれだけ凄いことか。
表面で薄ら笑い、内心でじめじめと泣いていた、幼いあの日の私に教えてあげたい。
「明日は、雨か」
「ううん、曇りだって天気予報は言ってた」
「そうか」
「うん」
何てことない会話が、空気を軽くしていく。
「櫻子」
「ん?」
「ありがと」
「何が」
「何だろうね」
私が笑うと、櫻子もつられて少し笑った。
明日は、もう少しいい日になるといい。
そんな願いを込めて、彼女の手に優しく触れた。
END.




