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百花繚乱~一日一作短編集~  作者: 飛鳥井 作太


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209/242

別に懇願しているわけではない、はず(百合。幼馴染同士女子高生。朝子×星音)

 放課後。朝子の部屋で。

 いつも通り、ローテーブルに向かい合わせで宿題をしていた。

 同時に始めたはずだが、二十分経った今。彼女は先に終わり、私は未だ苦戦していた。

「まだそこか」

「うるさいなあ」

 数学は苦手だ。計算自体苦手なのに、複雑怪奇なルールが加わって、もう何が何やらさっぱりだ。

 今も途中で計算か何かを間違えたらしく、初めからやり直している。

「答え、写すか? 私も間違ってる可能性が高いけど」

「……これ詰んだら、お願いする」

 明日の小テストは、ここから出る。数字を変えて。

 だから、ある程度自分で解けないと再試待ったなしだ。

「…………」

 しばらく格闘して、何とか解けた。頭が重い。正解している可能性は……どうだろうか。

 それでも、公式の使い方は何とか分かったような気がする。

 ほっと息を吐いたとき。

 朝子が私の左手に触れた。

「朝子?」

 彼女は黙って私の左手を掬い取ると、その甲にキスをした。

「っ」

 押し当てられた唇の熱に、少し身体が震える。

「な、何。どうしたの」

「……何となく」

 したくなった、と言って、小さく朝子は笑った。

「苦戦してる顔が可愛くて」

「……馬鹿にしてる?」

「いや? 思ったままを言ってる」

 その目に、確かに揶揄っている様子は見当たらず。

 それが逆に悔しくて、私は左手でそのまま彼女の手を掴み、こちらは掌にキスをする。

 掌の柔らかな感触が、新鮮だった。

「……掌にキスする意味、知らないだろ」

「え、意味あるの」

「ある」

 聞きたいか、と尋ねる彼女の目に、初めて揶揄いの色が見えた。

「……いらない」

 と私は視線を逸らす。

 まずい意味だったらどうしよう。

 そんな焦りを見抜いたのか。

 くつくつと可笑しそうに朝子が笑った。またも悔しい気持ちが湧き起こる。

 どうとでもなれという気持ちで、私は彼女の指を食んで反撃をした。


 END.


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