別に懇願しているわけではない、はず(百合。幼馴染同士女子高生。朝子×星音)
放課後。朝子の部屋で。
いつも通り、ローテーブルに向かい合わせで宿題をしていた。
同時に始めたはずだが、二十分経った今。彼女は先に終わり、私は未だ苦戦していた。
「まだそこか」
「うるさいなあ」
数学は苦手だ。計算自体苦手なのに、複雑怪奇なルールが加わって、もう何が何やらさっぱりだ。
今も途中で計算か何かを間違えたらしく、初めからやり直している。
「答え、写すか? 私も間違ってる可能性が高いけど」
「……これ詰んだら、お願いする」
明日の小テストは、ここから出る。数字を変えて。
だから、ある程度自分で解けないと再試待ったなしだ。
「…………」
しばらく格闘して、何とか解けた。頭が重い。正解している可能性は……どうだろうか。
それでも、公式の使い方は何とか分かったような気がする。
ほっと息を吐いたとき。
朝子が私の左手に触れた。
「朝子?」
彼女は黙って私の左手を掬い取ると、その甲にキスをした。
「っ」
押し当てられた唇の熱に、少し身体が震える。
「な、何。どうしたの」
「……何となく」
したくなった、と言って、小さく朝子は笑った。
「苦戦してる顔が可愛くて」
「……馬鹿にしてる?」
「いや? 思ったままを言ってる」
その目に、確かに揶揄っている様子は見当たらず。
それが逆に悔しくて、私は左手でそのまま彼女の手を掴み、こちらは掌にキスをする。
掌の柔らかな感触が、新鮮だった。
「……掌にキスする意味、知らないだろ」
「え、意味あるの」
「ある」
聞きたいか、と尋ねる彼女の目に、初めて揶揄いの色が見えた。
「……いらない」
と私は視線を逸らす。
まずい意味だったらどうしよう。
そんな焦りを見抜いたのか。
くつくつと可笑しそうに朝子が笑った。またも悔しい気持ちが湧き起こる。
どうとでもなれという気持ちで、私は彼女の指を食んで反撃をした。
END.




