倖せ者になる瞬間(百合。真面目×自由人。馨×ミイ)
──自分は倖せ者だな、と思う瞬間がある。
苦労して描いた絵が、完成したとき。
長時間並んで食べたお菓子が、涙の出るくらい(と言いつつ実際泣いたことはないけど)美味しかったとき。
色々あるけど、でも一番沁み入るように感じる瞬間は。
「ミイさん!」
これだ。
夕方の駅。
仕事帰り、学校帰りの人たちが溢れる中で。
改札から出た私をすぐさま見付け、一目散に彼女が駆け寄って来るこの瞬間。
彼女の顔には、光り輝く満面の笑みが浮かび。
駆けて来る足も、弾んだ声も、すべてが私に伝えてくれる。
──私に会えて嬉しい。とても嬉しい。
って。
私を見ただけで、これほど嬉しくなってくれる人が居るなんて。
これは凄いことで、倖せなことだなあとしみじみ思ってしまうのだ。
胸の中が、ぽかぽかと温かい。まるで極上の飴ちゃんを舐めているみたいに、甘やかな気持ち。
周りの人たちの顔すら、いつもより美しく見えた。
「お待たせ、馨くん」
「いえ、さっき来たところです」
……嘘だな。
きっと、十五分は前に来ていた。いつもそうだから。
私は、くすっと笑った。
「ミイさん?」
「ん? 好きだな、って思って」
私がそう言うと、さっと彼女の頬に朱が走り。
「……私も好きです」
照れた笑顔と共に、私を嬉しくさせることを当たり前のように言う。
私の頬も、朱いだろうか。頬が緩んでいるのだろうか。
それを見て、彼女が倖せな気持ちになってくれたら。
「行こう、馨くん」
私も、とてもとても嬉しい。
「はい、ミイさん」
私の差し出した手を、ぎゅっと強く、それでいて優しく握り締め、馨くんが笑った。
ああ。
本当に私は、倖せ者だ。
END.




