半分こがこれほどまでに(百合。僕っ娘先輩×私っ娘後輩。有田×白山。まだ付き合っていない高校時代)
塾の夏期講習帰り。
疑問点を先生に聞きに行っていたため、帰りの波は過ぎ去っていた。
外に出ると真昼の太陽に焼かれ、嫌気が差した。立っているだけでも、じわりと汗が噴き出す。むっとした熱気が、歩くごとにまとわりついた。
駅前は、がらんと空虚な明るさに満ちている。
このあたりは、学習塾が密集している(駅を挟んで反対側に立地する、全寮制の我が校の生徒たちを主ターゲットにしているからだろう)影響で、普段は生徒たちがあちらこちらでたむろしているのだが。
今は暑過ぎて、皆、講習が終わると早々と寮へ引っ込んでしまうらしかった。
数分程度とは言えこの暑い中ひとり黙々と帰るのは、とても辛い。
私は、駅前のコンビニへ一旦避難することにした。
アイスでも買って、食べながら帰ろう。
そう思い、コンビニへ入ったのだが。
「…………」
涼しい風に当てられ、熱を冷ましてしばらく。
アイスコーナーに釘付けになっていた。
強烈に欲するアイスと、帰り道に適するアイスが乖離している。
(どうしよう……悩む)
本能の欲求に従うべきか。理性に従うべきか。
いや、理性に従えよ、夏だぞ。でもな、今日は結構きつかったからな、ご褒美が欲しいんだよな。
そんな脳内で繰り広げられる自分同士の戦いを、ボーッと眺めていたとき。
「どした、ハク」
横から声をかけられ、肩が冗談でなくビクッと跳ねた。
「! っっっくりした」
「そんなに吃驚する?」
私に声をかけてきた有田さんが、苦笑しながらこちらを見ている。
「有田さん、何でここに?」
「夏期講習。そっちも?」
「はい」
有田さんが通っているのは、私とはまた別の塾だ。
「先生に質問していたら、帰りの波を逃して。何となく、コンビニに」
「おお、一緒だ。こう暑いとさ、波に乗らないと帰れないよね」
「そうなんですよ」
うちの学校は山の中にあるので、帰りは上り坂だ。
たかが数分、されど数分。
木陰を歩くのでも、夏の坂道は結構きつい。
何かしらの勢いが無いと帰れないのだ。
「僕はアイスでも食べて帰ろうと思ってんだけど、そっちは?」
「あ、私もです。ただ、迷ってて」
「へー。どれとどれ?」
「どれとどれというか……これを」
食べたくて、と私が指差したのは、二つ一組になったミルクコーヒーアイスだ。
「やんちゃだな。二つも食べるのか」
「いえ。二つも食べられないので、迷ってるんです」
一つだけ食べて、一つを保管する?
この暑さだ。寮に着く頃には完全に溶けている気がする。そうならなくとも、アイスにとって良くないことが起きそうだ。
「でもこの味が欲しいんですよね……」
何故か私の舌は今、強烈にこのアイスの味を欲していた。
「ミルクコーヒー、美味しいもんね」
「そうなんです」
「よっしゃ」
有田さんはそう言うと、冷凍庫からそのアイスを一つ手に取った。
「僕がこれを奢ってあげよう」
「え、でも」
有田さんも、食べたいアイスがあったんじゃ。
そう言いかけたが、
「僕が、ハクとこれを食べたくなっちゃったの」
振り向いた彼女の笑顔が、あまりに楽しそうで。
何故だか、きらきらして見えて。
私は自然と「ありがとうございます」と呟いていた。
あれ、何だろう。
そっと胸に手を当てる。
心臓がドキドキと早鐘を打っている。胸の底から、むずむずするような、わくわくするような、そんな気持ちが湧いて来る。
(……私は、こんなにもあのアイスを食べたかったのか)
私は何か、奇妙な心地になった。
奢って貰ったアイスは想像以上に美味しく、「美味しいね」「美味しいですね」と言い合うのが、驚くほどに楽しかった。
END.




