好日スコーン日和(歳の差薔薇。菓子職人×元塾講師。トーリー×颯太。第三者視点)
日曜日の午後。
お店は少し落ち着いて、店内には、私と二人の常連さん、颯太さんだけが居る。
常連さんたちのお買い物は終わって、今はみんなで、ちょっとした世間話に興じていた。
颯太さんはレジの中締め作業中で、相槌程度の参加。
お店の中にはバターの香ばしい匂いと紅茶の芳しい薫りが満ちている。
平和で、麗らかな午後だ。
「いらっしゃいませー」
奥から、バスケットを持った店長が姿を現した。コックスーツを纏った彼は、この店の店長であり、唯一のパティシエだ。
「店長さん、こんにちは」
「こんにちはー」
常連さんたちが、にこにこと挨拶する。
「はい、こんにちは」
唯一の作り手ということで、彼はいつも奥の厨房に居ることが多い。
常連さんでも、彼に会うことはあまり無い。
だから大抵の常連さんは、店長が出て来ると嬉しそうにする。
……まあレアキャラという以外に、その見目の良さが(特に女性のお客さんの)心を掴んでいるのだろう。
彫りの深い綺麗なお顔にいつも浮かぶ柔和な笑み、すらりと伸びた背の高さ、お菓子作りで鍛えられた二の腕のあたりなど、モテ要素の多い人だ。
もちろん「美味しいお菓子を作っている人」という尊敬の念もあるとは思うけど。
「これ、秋の新作sconeです。よかったら、味見しますか?」
差し出されたバスケットには、いい匂いを漂わせているスコーンが二つ、半分に割られて入っていた。それぞれ、きちんと爪楊枝も刺してある。
黄色みの強いそれは、恐らくかぼちゃ味だ。
「いいんですか?」
「嬉しい、頂きます」
常連さんたちの顔が華やぐ。
「どうぞどうぞ」
スコーンを口にすると、更にその笑みが深まり、こちらまでほっこりした気持ちになる。
「日向さんも」
「ありがとうございます」
勧められるままに、私もそれを口にする。
ぱくりと食べた瞬間、ぶわっと倖せが口いっぱいに広がった。
「美味しい」
ほくほくしたかぼちゃの甘みとバターの香ばしさに、舌が大喜びしている。テンションが静かにググッと上がる。
「今回のも、とっても美味しいです」
「去年のより、かぼちゃの味が濃いめですか?」
常連さんたちの声も、先程より弾んでいた。きらきらした瞳をしていて、わかります、と一人頷いた。
「そうなんです。ちょっとかぼちゃの配分をふやしました」
にっこり微笑む店長も、嬉しそうだ。
「颯太さんも、食べます?」
「あ、はい」
中締めをしていた彼が顔を上げた。
そんな颯太さんの元へ店長が大股で歩み寄り。
「はい、どうぞ」
爪楊枝を手にして、そのままスコーンを彼の口へと運んだ。
颯太さんも普通の顔で、差し出されたスコーンをぱくりと頬張る。
「! ん、おいし……!」
もごもごと呟く彼の瞳が、パアアと輝いた。
「ほんとうですか!」
そしてその輝きと呼応するかのように、はしゃいだ声を上げる店長。
「うれしいです。前にもらったadviceどおり、かぼちゃの配分をふやしたのです」
「さっき言ってましたね」
小さく微笑む颯太さんと対照的に、店長は「はい!」と元気にお返事をする。
何だろう。店長の腰辺りに、ぶんぶんと大きく振られるわんこの尻尾が見えるようだ。
「尊……」
「眼福……」
置いてけぼりを喰らった常連さんたちはと言えば、寧ろ倖せそうに彼らを見て拝んでいた。
……うん。仲良きことは美しきかな。良い光景ですよね。良い光景を見ると、いい気分になりますよね。
でも、拝むのはやめましょうか。
「あの?」
「どうしました?」
無自覚に二人の世界を作っていた彼らが、きょとんとした顔になっているので。
「スコーンが美味しかったから感動なさっているのかと」
「確かに、とても美味しかったものね」
「うれしいです!」
何も知らない二人が、にっこり微笑む。
常連さんたちは「「はい……」」と言いながら、もはや拝むことすら忘れてただただ至福の笑みを浮かべ、佇んでいた。
まあ、うん。
今日もいい日だ。
END.




