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百花繚乱~一日一作短編集~  作者: 飛鳥井 作太


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202/241

好日スコーン日和(歳の差薔薇。菓子職人×元塾講師。トーリー×颯太。第三者視点)

 日曜日の午後。

 お店は少し落ち着いて、店内には、私と二人の常連さん、颯太《そうた》さんだけが居る。

 常連さんたちのお買い物は終わって、今はみんなで、ちょっとした世間話に興じていた。

 颯太さんはレジの中締め作業中で、相槌程度の参加。

 お店の中にはバターの香ばしい匂いと紅茶の芳しい薫りが満ちている。

 平和で、麗らかな午後だ。

「いらっしゃいませー」

 奥から、バスケットを持った店長が姿を現した。コックスーツを纏《まと》った彼は、この店の店長であり、唯一のパティシエだ。

「店長さん、こんにちは」

「こんにちはー」

 常連さんたちが、にこにこと挨拶する。

「はい、こんにちは」

 唯一の作り手ということで、彼はいつも奥の厨房に居ることが多い。

 常連さんでも、彼に会うことはあまり無い。

 だから大抵の常連さんは、店長が出て来ると嬉しそうにする。

 ……まあレアキャラという以外に、その見目の良さが(特に女性のお客さんの)心を掴んでいるのだろう。

 彫りの深い綺麗なお顔にいつも浮かぶ柔和な笑み、すらりと伸びた背の高さ、お菓子作りで鍛えられた二の腕のあたりなど、モテ要素の多い人だ。

 もちろん「美味しいお菓子を作っている人」という尊敬の念もあるとは思うけど。

「これ、秋の新作sconeです。よかったら、味見しますか?」

 差し出されたバスケットには、いい匂いを漂わせているスコーンが二つ、半分に割られて入っていた。それぞれ、きちんと爪楊枝も刺してある。

 黄色みの強いそれは、恐らくかぼちゃ味だ。

「いいんですか?」

「嬉しい、頂きます」

 常連さんたちの顔が華やぐ。

「どうぞどうぞ」

 スコーンを口にすると、更にその笑みが深まり、こちらまでほっこりした気持ちになる。

「日向さんも」

「ありがとうございます」

 勧められるままに、私もそれを口にする。

 ぱくりと食べた瞬間、ぶわっと倖せが口いっぱいに広がった。

「美味しい」

 ほくほくしたかぼちゃの甘みとバターの香ばしさに、舌が大喜びしている。テンションが静かにググッと上がる。

「今回のも、とっても美味しいです」

「去年のより、かぼちゃの味が濃いめですか?」

 常連さんたちの声も、先程より弾んでいた。きらきらした瞳をしていて、わかります、と一人頷いた。

「そうなんです。ちょっとかぼちゃの配分をふやしました」

 にっこり微笑む店長も、嬉しそうだ。

「颯太さんも、食べます?」

「あ、はい」

 中締めをしていた彼が顔を上げた。

 そんな颯太さんの元へ店長が大股で歩み寄り。

「はい、どうぞ」

 爪楊枝を手にして、そのままスコーンを彼の口へと運んだ。

 颯太さんも普通の顔で、差し出されたスコーンをぱくりと頬張る。

「! ん、おいし……!」

 もごもごと呟く彼の瞳が、パアアと輝いた。

「ほんとうですか!」

 そしてその輝きと呼応するかのように、はしゃいだ声を上げる店長。

「うれしいです。前にもらったadviceどおり、かぼちゃの配分をふやしたのです」

「さっき言ってましたね」

 小さく微笑む颯太さんと対照的に、店長は「はい!」と元気にお返事をする。

 何だろう。店長の腰辺りに、ぶんぶんと大きく振られるわんこの尻尾が見えるようだ。

「尊《とうと》……」

「眼福……」

 置いてけぼりを喰らった常連さんたちはと言えば、寧ろ倖せそうに彼らを見て拝んでいた。

 ……うん。仲良きことは美しきかな。良い光景ですよね。良い光景を見ると、いい気分になりますよね。

 でも、拝むのはやめましょうか。

「あの?」

「どうしました?」

 無自覚に二人の世界を作っていた彼らが、きょとんとした顔になっているので。

「スコーンが美味しかったから感動なさっているのかと」

「確かに、とても美味しかったものね」

「うれしいです!」

 何も知らない二人が、にっこり微笑む。

 常連さんたちは「「はい……」」と言いながら、もはや拝むことすら忘れてただただ至福の笑みを浮かべ、佇んでいた。

 まあ、うん。

 今日もいい日だ。


 END.


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