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百花繚乱~一日一作短編集~  作者: 飛鳥井 作太


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その呼び方が、ずっと嬉しい(歳の差夫婦。年上×年下)

 夜。美味しいと評判の焼き鳥屋さんへ、嘉助さんと二人でご飯を食べに行った。

 お店は狭かったけれど、清潔感があり、香ばしい匂いに満ち満ちていた。

 食べた焼き鳥はどれもジューシーで、タレで食べても塩で食べても、鶏の美味しさを十分に感じられ、とてもとても美味しかった。

 二人で何本もの串を平らげ、満足して席を立つ。

 お会計は、嘉助さんが「ここは払うよ」と言って下さったのでお任せした。

 他の方のお邪魔になっては、と思い、外に出て彼を待つことにする。

 お店の前には、既に長い列が出来ていた。そちらの方々の邪魔になってもいけないと思い、店から少し離れたところ。

「お姉さん、一人?」

 驚いたことに、声を掛けられた。

 世慣れた風な……有体に言ってしまえば、遊び慣れていそうな男の方が、こちらを見下ろし微笑んでいる。

「良ければ、俺とこれから飲みに行かない?」

「いえ」

 私は「夫が」と口にしかけ、しかし寸前で照れてしまった。

「……連れがおりますので」

「連れ? 女の子? だったらその子も一緒にどう? 俺もダチ呼ぶし」

「いえ、あの」

 やはり、照れずに言えば良かったと後悔したそのとき。

 ぐい、と誰かに強く肩を抱かれた。

 温かな身体にぶつかり、そちらを見上げる。

「……うちの妻に何か?」

「嘉助さん!」

 鋭い眼差しで男性を見やる彼が居た。

 その顔にも、先程の言葉にも、心臓が煩《うるさ》く早鐘を打つ。

「……いや、何でも」

 男性は舌打ちをすると、すごすごと何処かへ去って行った。

「おひいさん、大丈夫だった?」

「は、はい。大丈夫です」

 こちらを見る顔が、ぱっと心配げなものに変わる。

「ごめんね、一人にしちゃって。でも、駄目だよ。こういう繁華街で先に店を出ちゃ。そろそろああいう輩がうろつきだすから……って、聞いてる?」

「す、すみません」

 心配をかけてしまって、申し訳ないと思う。

 思うのに。

「……『うちの妻』の響きに、嬉しくなってしまって」

 まだ、心臓が弾んで仕方ない。頬を押さえれば、少し熱い。きっと朱く染まっているし、口元もだらしなく緩んでしまっているのだろう。

 いけない。私ったら。

「……。結婚してどれくらい経ったと思ってるの」

「えっと」

 ひぃふぅみ……と月日を数えて、あっと声が出た。

「そろそろ、一年ですね!」

 駄目だ、反省した傍からまたはしゃいでしまった。

「今でもまだ、『妻』って言われると嬉しいんだ?」

 嘉助さんの問いに、私は大きく頷く。

「きっと一生、嬉しいままです」

 観念して、もう顔に笑みを広げて彼を見上げた。

「慣れてって言おうと思ったのに。ずるいなあ」

 彼は、困ったように眉を下げ、それでも同じように笑ってくれた。

 その笑顔もまた、嬉しそうに見えて。

 私は、自分の笑みが深まるのを自覚した。


 END.


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