私だけが知ってる、恋人の変人さ(百合。真面目×自由人)
大抵の人間は、私と恋人のどちらが変人かと問われたら、何処かふらふらした印象の私を指して、変人だと答えるだろう。
そりゃそうだ、と自分でも思うし、別に否やは無い。
ただ恋人の真面目さが、斜め方向へ飛ぶときなどは「これもある種、変なのでは?」と思ったりもするけれども。
それでも馨くんには、変わった性癖は無い。
尽くし癖というのか、奉仕癖の強火なところは、ちょっと困ることも無いでは無いけど。
おおむね、すべてにおいて一般的だと思う。
だけど、これはそんなに一般的じゃないだろうと感じることがある。
「ああ、ミイさん……」
彼女はたまに私を膝に乗せ、ギュッと抱き締めて来る。
これは、まだ良い。
重くないのかと常々思うが、本人が「命の重みが! 貴女が生きているというこの実感が! 良いんですよ!」と力説しているので、良いのだろう。
問題は。
スゥゥゥゥ……
これ。
「……はー……ミイさんの匂いがする……」
「毎回言ってるけどさぁ、あんま吸わんでって」
何故か私の胸元や肩口に顔を寄せ、思い切り吸って来るのである。
擽ったいし、ちょっとぞくぞくもしちゃうし、あとは何やら恥ずかしいので、正直ちょっとご遠慮頂きたい。
「何でですか?」
「そんなキリッとした顔で聞かれてもねぇ」
整った顔をしているので決め顔が本当に決まるのは、こういうときには癪だった。
それにしても、やはり綺麗な顔だ。
「何か恥ずかしいし。汗臭いだろうし」
「いい匂いです、大丈夫です」
「洗たく洗剤様様だねぇ」
「いえ、ミイさんの匂いも混じってこその香りです」
「気持ち悪いからやめてぇ?」
「気持ち悪くないですよ、普通の事です」
「恋人を吸うことが?」
「はい」
こちらを見つめる眼差しは、怖いくらい澄んでいた。
「猫吸いと同じく、愛おしいものを吸うのは、人間の本能に根差した行為ですから」
……いや、実際怖い。
「ごく一般的なことです」
絶対一般的じゃないことを一般的と言い切るの、普通に怖い。
「違うって、絶対」
「そんなことありませんよ」
普段なら、私の言うことをこれでもかというほど尊重してくれるのに。このことに関しては、決して譲らない。
……何故そんなに強くこだわっているのか。
「わっかんねー……」
これこそが間違いなく彼女の『変』なところなのだけれど。
人に話すには妙に恥ずかしく、誰にも言えていない。
ゆえに結局私だけが『変人』扱いされるのが、近頃ちょっと納得のいっていない事である。
END.




