その距離感は既にもう(百合。幼馴染同士女子高生。朝子×星音。第三者視点)
昼休み。ほどよく賑わう教室にて。
よくつるむ友人たち……星音と緑里……に声をかけ、図書室で借りて来た本を見せると寄って来た。もう一人、朝子が居ないが、どうやらトイレにでも行っているらしい。
そのままそれを囲み、相談タイムが始まる。
議題は『来月に迫った遠足で、回る場所について』。
うちの高校の遠足は、基本的にメインどころの指定された場所を一つ二つ回ったら、あとは自由行動となる。
と言っても完全に自由なわけではなく、決められた範囲内で、あらかじめどの場所を回る予定か班単位で行動表を提出しなければならない。
ゆえに早速、私が借りて来たガイドブックを中心に意見交換会を開く我々は、かなり優等生であると言える。
……まあ嘘だけど。単に目についたガイドブックを、話の種にしているだけなのだけど。
「……何見てる?」
最後の一人、朝子が帰って来た。
「あ、朝子。おかえり」
星音が、少しズレて彼女の場所を作る。
「お前も見るだろ?」
緑里が言って、
「だから何を見てるんだって」
朝子が眉を顰めた。
確かに、ごもっとも。
「ん。図書室で借りて来た」
私は、本の表紙を朝子に見えるように立ててやった。
「……ああ、遠足か」
合点がいったようで、顰めた眉が元に戻る。
「そ。店とかは回れんけどさ、御朱印集めたりするのはオーケーらしいから」
「これ、色んなところの御朱印が載ってるんだよ」
緑里が楽しそうに言った。
「それで行くところを決めるのも有りだなって話してたんだ」
星音の言葉に、
「……お前の気になるところは?」
朝子が真っ直ぐに彼女を見て問う。
おっと? と思わず片眉が上がってしまうが、口には出さない。
「えっとね。……彩有里、ちょっと借りるよ」
「どうぞ」
私は、星音に本を差し出した。
彼女がページを捲り、目的の御朱印を探す。
「えっと……あった、ここなんだけど」
「ふぅん」
そんな星音にくっつくようにして、朝子がページを覗き込む。頬と頬が、くっつきそうなくらい……どころか、普通に微かに触れている。
別に、そこまでして覗き込まなくても。
「文字がはっきり読みやすいのが、いいなあって」
「繋げ字が恰好良いとかではなく?」
「後から読み返して、見やすい方が良くない?」
「なるほど」
そんな状態でも普通に会話をしている二人を見て、私と緑里は顔を見合わせた。
──近い。
いや、元から距離感バグってるところのあった二人だけれど。それでも、「幼稚園の頃から一緒らしいし、そんなこともあるか?」と流せるくらいだった。
しかし、今は。というか、最近は。
絶対に身体の一部がくっついている気がするのだ。
二人が元々スキンシップ過多な人間だったら気にはならないが。
「でもさ、やっぱ繋げ字の恰好良いのも欲しいから、ここも行きたくない?」
緑里が、果敢にも星音の肩に腕を回し、別のページを指した。……やるなお前。
「まあ確かに、って、くっつかないでよ、熱い」
「何だよツレないなあ」
「……離れてやれ」
「わーかったよ。……痛ッ、何でお前が抓るの、朝子」
……この通り、朝子も星音も、別にスキンシップが好きなタイプではないのだ。
それなのに、この触れ合い方ということは。
「彩有里~、二人がいじめる……」
とりあえず、こちらに抱き着いて来た緑里の頭を撫でることにした。
「よしよし」
「「別にいじめてない」」
この緑里の方が、よほどスキンシップ過多だ。
「とりあえず、その二つ行ってみるか~」
引き続き頭を撫でてやりながら、私はそう言った。
「一応、地図で距離見といた方が良くない?」
星音の言葉に、
「距離感どんなもんだろうな?」
復活した緑里がガイドブックの始めの方……マップのページを開く。
「……待て、この二つ、かなり離れてないか?」
朝子の冷静なツッコミに、二人も、うーんと首を捻った。
「どっちもは難しいかぁ」
「いや、こっちは金剛峯寺に近くて、こっちは奥の院口に近いから、案外行けんじゃね? 確か金剛峯寺と奥の院の御廟は絶対回らなきゃだろ?」
「御廟は違う」
「そうだっけ?」
「あ、バスも使えば何とか?」
そうして、ああだこうだ話す三人(距離感的に、二人と一人に感じる)を見ながら。
(……やっぱりこいつら、付き合ってるよなぁ)
私は、まったく遠足と関係無いことを考えていた。現に、マップも見ていない。
(遠足のときに踏み込むか? バスだとアレだから、やっぱり散策中とか、御朱印書いてもらってる間とか)
ああもう。聖地に行くというのに、煩悩だらけのこの我が身よ。
「……写経でもした方が良いのかね」
「何が?」
きょとんとしている友人たちに、何でもないと笑って首を振った。
どちらにせよ、彼女たちが倖せならそれでいいのだ。
END.




