ここに居るよ、ずっと居る(百合。幼馴染同士女子高生。朝子×星音)
梅雨晴れの日。ふと思い立って、朝子と二人、学校帰りに海へ寄った。
海開きの前だからか、人はまばらだ。
「やっぱりまだ、そこまで人多くないね」
のんびり砂浜を歩きながら言う。
今朝まで降っていた雨の影響か、はたまた心持ちいつもより強く吹いている風の影響か。今日の波は高かった。
「梅雨で平日だと、そうだろうな」
私の少し後ろを歩きながら、朝子が答える。
平坦な声は、他の人が聞いたら不機嫌なのかと勘違いしてしまいそうだが、長い付き合いで別にそういうわけではないことを私は知っていた。
「こういう日の海は、好きだなあ」
しみじみと呟く。
西日が反射する波間は、きらきらと輝いて美しい。
それをこんな風にゆっくり眺められるのが嬉しかった。
「知ってる」
私の呟きに、朝子がそう言った。自分の口元が、勝手に緩むのを感じる。
幼稚園の頃から「海は、夏以外に行きたい」「人が居ない海が好き」と私が言い続けていたことを、朝子は知っているのだ。
そんなささやかで当たり前のことが、何となく嬉しい。
機嫌よく再び海を眺めていたら。
少し離れた先で、魚が跳ねた。
「! ねえ、朝子……」
あそこ、魚が居るみたい。
小さな頃と同じように、あちらを指差しながら、朝子を振り返る。
すると彼女は、海を見ておらず、真っ直ぐこちらを見ていた。
私だけを、見つめていた。
(……まただ)
こちらを見つめる朝子の目元や口元は柔らかに綻んでいて。そしてその眼差しは、この上なく優しい。
だけど、眩しいものを見るように目を細める様は、まるで。
(遠くのものを見ているみたい)
彼女は時々、そんな風に私を見るのだ。
足が、止まる。つられて、朝子の足も止まる。
「どうした?」
(どうしてだろう)
「朝子、あの」
(私は、いつだって近くに居るのに)
どうしてそんな、手を伸ばしても届かないみたいな顔をするのだろう。
キュッと胸が締め付けられる。
「……星音」
ふと何かに気付いた朝子が、こちらの方へ手を伸ばした。
「スカーフ。ほどけかけてる」
「あ、本当だ」
胸元を見下ろせば、確かにそれは、だらしなくほどけかかっていた。
「いま結ぶ。じっとして」
伸びて来た彼女の手が、そのまま私のスカーフに触れる。そしてそれを一度ほどき、また結び直していく。
その手を見つめながら。
「! 星音?」
私は、朝子の袖口を摘まんだ。半袖だから、少し変な感じ。
「……私、ここに居るよ?」
どうしても伝えたくて、そう言った。
彼女の手が止まる。
「ずっと、朝子の近くに居るよ」
私の視線と彼女の視線が重なった。
ほんの僅か、朝子が目を見開く。そして。
「……ん」
その目が、また柔らかに綻んだ。けれど、遠いものを見つめるような気配は、もう無い。
私はそのことにホッとして、自分の口角が嬉しげに上がるのを自覚した。
朝子の手が、袖を摘まむ私の手を取り、そのまま繋ぐ。
今度は別の意味で、キュッと胸が締め付けられた。
「あっちまで行ってみるか」
「うん。帰りに、アイス屋寄って帰ろうよ」
「混んでなければ」
「うん、混んでなかったら」
そのまま二人並んで歩く。
アイス屋が混んでいても、混んでいなくても、どちらでもきっと楽しく思う気がした。
END.




