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172/201

香りを移して、おんなじに(歳の差百合。年上×年下。どちらも成人済。同棲中)

 少し余裕のある、朝。

 用意を済ませて、ソファーに座る。

 手には、新しく買ったハンドクリーム。

 初めて使うものは、やっぱりゆとりを持って香りを楽しみながら付けたい。

 封を切り、丁寧に指先から塗っていく。

 鼻先を擽る檸檬の香りに、勝手に口角が上がった。

 夏らしい、いい匂い。スッとして爽やかで、でも何処か甘い。うん、買って良かったな。

芽瑠めるちゃん、ハンドクリーム、新しくした?」

 桐子とうこさんが、私の隣に座って問う。桐子さんも準備ばっちりの状態だ。

「はい、檸檬の匂いのです」

 塗りたての手を差し出した。そこへ、彼女が顔を寄せる。そして、

「いいね、爽やかだ」

 と微笑んだ。

「ふふっ、テスターで『ひと匂い惚れ』しました」

「匂い惚れかあ。あるよね」

 桐子さんの目が、キラリと光る。

「……ね、私も付けてみていい?」

「いいですよ」

 私がハンドクリームを渡すより先に、桐子さんが自分の手の甲を差し出した。

「芽瑠ちゃんに塗って欲しいんだけど……だめかな?」

「! いえ、全然、構わないです!」

 それでは……と、自分にしたのと同じように、その手にクリームを出した。塗り広げるのは、もっと丁寧に。

 指と指が重なったり、磨り合わさったり……指の股に塗るときは、何故か心臓が早鐘を打った。

「な、何だかちょっとドキドキしますね……」

「そうね。私もドキドキしてる」

 彼女の声には面白がる気配があるだけで、緊張は見られない。

「嘘だぁ」

「ほんとほんと」

 ほら、顔だって余裕の笑み。

 ちょっと悔しい、と思いながら、より一層丁寧に塗り広げていった。

「はい、出来ました」

「ん、ありがと」

 桐子さんは、自分の手を改めて嗅ぎ、

「いい匂い」

 にっこりと笑みを深めた。それから。

「芽瑠ちゃんと一緒で、落ち着くわ」

 私の耳元で囁くようにそう言った。

 どきんっ、とまた私の心臓が大きく鳴る。……ずるい。

 だから、

「……私も、私の匂いに出来て、満足です」

 私も囁き返し、その耳に触れるか否かの、微かなキスをお見舞いした。

「言うねぇ」

 耳を押さえて、桐子さんは少し照れた顔になる。

「言います」

 結局私も熱くなった頬を持て余し、それでも強気にそう返した。


 END.


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