香りを移して、おんなじに(歳の差百合。年上×年下。どちらも成人済。同棲中)
少し余裕のある、朝。
用意を済ませて、ソファーに座る。
手には、新しく買ったハンドクリーム。
初めて使うものは、やっぱりゆとりを持って香りを楽しみながら付けたい。
封を切り、丁寧に指先から塗っていく。
鼻先を擽る檸檬の香りに、勝手に口角が上がった。
夏らしい、いい匂い。スッとして爽やかで、でも何処か甘い。うん、買って良かったな。
「芽瑠ちゃん、ハンドクリーム、新しくした?」
桐子さんが、私の隣に座って問う。桐子さんも準備ばっちりの状態だ。
「はい、檸檬の匂いのです」
塗りたての手を差し出した。そこへ、彼女が顔を寄せる。そして、
「いいね、爽やかだ」
と微笑んだ。
「ふふっ、テスターで『ひと匂い惚れ』しました」
「匂い惚れかあ。あるよね」
桐子さんの目が、キラリと光る。
「……ね、私も付けてみていい?」
「いいですよ」
私がハンドクリームを渡すより先に、桐子さんが自分の手の甲を差し出した。
「芽瑠ちゃんに塗って欲しいんだけど……だめかな?」
「! いえ、全然、構わないです!」
それでは……と、自分にしたのと同じように、その手にクリームを出した。塗り広げるのは、もっと丁寧に。
指と指が重なったり、磨り合わさったり……指の股に塗るときは、何故か心臓が早鐘を打った。
「な、何だかちょっとドキドキしますね……」
「そうね。私もドキドキしてる」
彼女の声には面白がる気配があるだけで、緊張は見られない。
「嘘だぁ」
「ほんとほんと」
ほら、顔だって余裕の笑み。
ちょっと悔しい、と思いながら、より一層丁寧に塗り広げていった。
「はい、出来ました」
「ん、ありがと」
桐子さんは、自分の手を改めて嗅ぎ、
「いい匂い」
にっこりと笑みを深めた。それから。
「芽瑠ちゃんと一緒で、落ち着くわ」
私の耳元で囁くようにそう言った。
どきんっ、とまた私の心臓が大きく鳴る。……ずるい。
だから、
「……私も、私の匂いに出来て、満足です」
私も囁き返し、その耳に触れるか否かの、微かなキスをお見舞いした。
「言うねぇ」
耳を押さえて、桐子さんは少し照れた顔になる。
「言います」
結局私も熱くなった頬を持て余し、それでも強気にそう返した。
END.




