どうして今更と思うわけで(片想い。幼馴染。男女)
一つ前のお話の、女の子サイドのお話。
「どないしよう。どない思う、めぐみん?」
「どないと言われましても。何も聞かされてない内は、意見のしようがないよ。あと、めぐみん呼び止めろ」
友人のめぐみんこと、恵 今日子が、胡乱なものを見る目でこちらを見た。
我がサークルのたまり場である、部室棟最上階・最果て、その大部屋の更に窓際。
そこで、恵は読んでいた本から顔を上げ「それで?」と言った。
うちのサークルの人間は今、私たちしか居ない。
「何がどないしようなわけ?」
「兄ちゃんに恋をしてしまったかも知れん……」
「は?」
恵が問うた。
「兄ちゃんって、悟さん?」
「ちゃうよ、んなわけないやん」
悟は、三つ離れた私の兄だ。
ただいま絶賛留年中。二回目の三年生をやっている。同じ大学に通っているので、さっさと卒業してもらいたい。
追い付きたくないのだ。あと二年猶予があるとは言え、油断は出来ない。
「史兄ちゃんよ」
史兄ちゃん……史孝兄ちゃんは、悟兄ちゃんの友だちだ。
家は近所の総菜屋さんで、そのためかうちの家によく預けられていた。
幼稚園に上がるくらいまで(嘘。上がってからしばらくも)本当の兄ちゃんだと思い込んでいた。
だからお互いの好き嫌いも、眠くなるタイミングも、尾籠な話でアレだが、屁の匂いすらも知っている。
「ああ」
恵が、うなずいた。
「別に、何の問題も無くない?」
「んなわけないやん」
「何で?」
「考えてみ? うちら、ほっとんどずっと三百六十五日、同じ家で育っとんねんで? そんなん、もう実の兄妹と変わらんやん」
「それは……そうかもだけど」
「せやのに……」
近ごろ、簡単な料理を作る後ろ姿とか。こちらをじっと見つめて来る眼差しとか(そういうときはまず碌なこと……「鼻毛ついとうで」とか「歯に海苔ついとうで」とか……を言われないとわかっているのに!)。お菓子をあげたときに嬉しそうに「ありがとう」と笑う顔とか。
そういうものを見るたび、いつの間にか心臓が跳ね……。
「なーにを、ときめいとるんや!?」
思い出すと恥ずかしくなり、思わず叫んだ。
すると。
「何にときめいとるって?」
後ろから今ちょうど思い出していた声が降って来て、驚く。
「ふぎゃ!?」
「山畠先輩、こんにちは」
こちらに来るのが見えていたのだろう、恵は平然と挨拶などしている。……教えろや。
「こんにちは。……で、亜樹は何にときめいとるって?」
「べ、別に……」
「あれか、またゲームのキャラクターか?」
「そ、そう!」
ぶんぶん首を縦に振った。
「ふぅん……?」
史兄ちゃんは一応納得したのか、つまらなそうにうなずく。
「史兄ちゃん、何でおるんよ」
「研究会のミーティング」
兄ちゃんが所属している世界食文化研究会(と言う名の、酒飲みサークルだ。飲みサーと違う点は、交流は二の次三の次で、『酒』と『つまみ』に本気である点だろうか)は、うちのたまり場と同じ大部屋で、隣の隣くらいの机がなわばりだ。
「お前、今日バイトは?」
「あらへん。五限に臨時授業入ったから」
私がそう言うと、兄ちゃんがニッと笑った。
「じゃあ晩飯は家か。ちょうどええわ。うちの店の新作持ってったるさかい、感想くれ」
「ん、わかった」
兄ちゃんは総菜屋を継がへんと言っている割に、メニュー作りに関わっていたりする。どっちやねん。
じゃあまた後でな~と己のたまり場の方へ行く兄ちゃんの背中を見送りながら。
「……良かったね?」
「良かったけど、良くあらへん」
私は、ドキドキ高鳴る心臓に、どうしたものかと途方に暮れた。
END.




