美味しそうに食べる君を(百合。幼馴染。女子高生。朝子×星音)
九月も後半に差し掛かった昼休み。暑さも昨日一昨日よりだいぶんマシになって来た。
久々に出て来た中庭は、木陰も多く、ベンチの七割がたは既に埋まっていた。
同じように皆、涼しさにつられて出て来たらしい。
「やっと涼しくなって来たね」
「二度と暑くなるなと言いたい」
「ほんと」
木陰のベンチに座れて、ほっとひと息吐いた。
座るや否や、星音が、紙袋から取り出した包みをいそいそと剥がしていく。
出て来たのは、ハムとチーズのカスクートだった。
「美味しそうだな」
「ほら、近くのパン屋さん。あそこで、新発売してた」
何処か得意げにそう答える彼女は、わかりやすく嬉しそうだ。
いただきまーす、と早速カスクートにかぶりつく。
星音は口にした瞬間、んんっ、と目を見開いた。
「美味しい!」
「良かったな」
「ジェノベーゼソースに、ちょっと大葉が入ってるみたい。すっとして美味しい」
もうひと口ぱくりとかぶりつく。そのとき、彼女の口の端に緑のソースが盛大に付いた。
それを見て、しょうがないやつという気持ちと、可愛いという気持ちが、胸の中でないまぜになった。
甘やかな温もりが、胸いっぱいに広がっていく。
愛しい、とでも名前が付きそうな気持ち。
「口、付いてる」
そう言って、私はそのソースを指で拭ってやった。
指先に付いたそれを、せっかくだからと舐めてみる。
……うん。確かに、美味しい。バジルの奥にある大葉が、良いアクセントになっている。
次行ったとき、自分もこれを買おうと決意しながら彼女の方へ視線をやった。すると。
「…………」
目の端と耳が、朱かった。
もしや、と思う。
「……こっち見ないで。何も考えてないから」
ぽそりと呟かれた言葉に、もしやの中身が合っていたことを知った。
(照れるな今更。これくらいで)
とこちらまで何だか気恥ずかしくなるが、やっぱり朱い頬も可愛くて。胸にじんわり広がる温もりも冷めなくて。
もし今、そこに直接口付けたらどうなるだろうと悪戯心が芽生えてしまった。
END.




