あなたと二人で疑似的バカンス(百合。真顔系クール女子×ダイナマイトマッスルボディ高身長女子。同棲中)
休日の午後。リビングにて。
私と大社は、二人で『バカンス』していた。
部屋に漂うのは、ココナッツアロマキャンドルの甘い香り。南国の空気が、これでもかと醸される。
ローテーブルの上には、硝子の器。先ほど食べたタピオカ入りココナツミルクが、うっすら底に残っている。
ネットに繋いだテレビ画面では、ハワイの海辺が映っており、波音が部屋の中を満たしていた。
ソファーに座る私の膝枕に、大社が寝転んでいる。その顔には大きなサングラス。
私は南国風ワンピースを身に纏い、彼女はアロハシャツに白い短パンを合わせていた。
ご機嫌で完璧な、バカンススタイル。
「どう? 大社。気分は?」
彼女を団扇(百均で買った可愛いスケルトンのお花団扇だ)でゆったりと仰ぎながら、そう訊いてみた。
冷房はきちんと効いているので、実際団扇は要らない。
でもまあ、気持ちの問題だ。
こういう団扇で仰いでいる方が、バカンス感あるなっていう。
「悪くない。いや、むしろ」
サングラスを持ち上げ、彼女がニヤリと口の端を上げた。
「最高」
「それなら良かった」
いつもの真顔がこうして無防備に笑って崩れると、ちょっと子どもっぽくてキュンとする。
嬉しくなる。
昨日の夜のこと。
「バカンス行きてぇ」
死んだ目で素麵を啜りながら、大社が言った。
「人っ子ひとり居ないビーチで、甘いモン飲みながらぼーっと昼寝したい」
「……それ、ホテルのプライベートビーチでも無理くない?」
絶対に誰かが居るに違いない。
「そうよなぁ」
「そもそも、暑いところ苦手でしょ大社」
「まったくもって」
あああもう暑くなくて、のんびり出来る海辺が欲しい……。
あまりに無理過ぎることを呟くくらい、彼女は疲れ切っているのだった。
「南国の雰囲気に癒されてぇ」
仕事がアホほど忙しいと言っていたから、仕方ないのかも知れない。
私は暫し考えてから。
「明日の午後なら、そのお願い聞けるかも」
「……え?」
素麺を啜り、にんまり笑った。
「にしても、まさか本当に南国リゾート体験を用意するとは思わなかった」
「疑似体験だけどね」
「涼しいから、寧ろこれでいいまである」
今日、朝から近くの百均と雑貨屋、スーパーを巡った。
そうして南国ムードを醸し出すものを買い揃え、セッティングし。
服も、去年の夏の終わりに、セールで買った南国風のものを引っ張り出して着た。
「満足して貰えたなら、何より」
暑い中、買い物してきた甲斐があるというもの。
でも、ちょっと。
「ふあああ、眠い……」
緩い空気の所為か、疲れと眠気がじわっと出て来た。
「交代するか?」
「大社が膝枕を堪能出来たなら、交代する」
「まだ堪能しきってないんだなあ」
「……ほんと、膝枕好きだよね」
こんな筋肉質な太もも、何処がいいんだろう。
「お前のだから」
愛しげに膝小僧を撫でる彼女に、胸いっぱいに嬉しさが広がった。
普段はそんなこと、素面でなかなか言わないのに。
疑似的な空間でも、やはりバカンスの空気に感化されているのか。
それなら、これも本当に悪くない。
「ね、大社。このまま寝ていい?」
「もちろん。本当に横になりたかったら、代わるからちゃんと言って」
「うん」
甘い香りと彼女の体温を感じながら、私はゆっくりと目を瞑った。
波の音がずっとしていて、何だか本当にバカンスに来たみたいだと笑う。微睡の中に、彼女と共に溶けていった。
END.




