雨の中にも月はある(両片想い。バイト先男女。先輩と新人)
一つ前のお話の二人。
しとしとしと。
雨が降る。
天気予報では、夜から雨。そう言って傘を押し付けて来た妹のお蔭で、俺は今濡れずに済んでいる。
それだけではなく。
傘の中には、もう一人。
バイト先の新人が、ちんまりと収まっている。
天気予報を見ていなかったこの阿呆を仕方なしに……という体で、彼女を己の傘に入れていた。
雨に濡れた道が街灯に照らされ、遠く先まで、ぼんやりと上下に光が続く。
ちょっと幻想的やないかと柄にもなく思っていたら。
「そういえば私、先輩を好きですよぅ」
ぱたぱた、ぱたたた
雨音の隙間から。
囁くような声が、愛を告げた。
「……」
そちらをちらと見る。奴もこちらを見ていて、その眼差しが思いのほか優しくて。俺の息が、ぐっと詰まった。
水の匂いが、濃く鼻腔を擽る。
「Like ?」
「Love」
俺の問いに、即座に返事が返って来た。
「そっか」
そっかそっか……そう、か。
しとしと、ぱたたた
雨音が跳ねる。同じように、俺の心臓も跳ねる。
「……俺は」
ぎゅっと傘の柄を持つ手に、力を込めた。
「俺は、その、あれや」
「はい」
柔らかな眼差しが照れくさくて、視線を外した。
格好悪いと知りつつ、真っ直ぐ見返しながらだと、上手く言えない気がした。
「……『月が綺麗ですね』的な、あれや」
まあ、どっちにしろ、大したことは言えなかったが。
敢えて「俺も」と言わなかったのに。
「ふふ、そうですか」
それでも、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。
「今、お月さま見えてませんけどね」
「あの街灯が、今日は月の代わりをしてくれるて言うとるわ」
「あと、夏目漱石氏はそれを言ったとか言ってないとか」
「どっちやねん」
しとしと。ぱしゃぱしゃ。ぱたたたた。
雨音が耳に優しく響いて、水の匂いが瑞々しく濃く薫る。
ひんやりとした空気の中で、俺の手に、彼女の手がそっと静かに重なった。
END.
一つ前のお話の二人。




